あざみ
あざみ(薊)とは
広く一般に見みられるのは「野あざみ」
あざみはキク科アザミ属の多年草で、北半球に300種ほど分布しており、日本では山野から海岸までの広い範囲に50種類ほどが自生していると言われています。あざみという名前は「ノアザミ」「ノハラアザミ」「タイアザミ」「キセルアザミ」「サワアザミ」「トネアザミ」など数多くのキク科アザミ属の植物の総称なので、単に「あざみ」と呼ばれ野草はありません。数多くあるあざみの中で最も普通に見られるのが「ノアザミ=野あざみ」で、北海道を除く日本各地で自生しています。
鋭いトゲを持つあざみはスコットランドの国花
あざみの葉はやや厚く羽状に分かれ、縁が大小の鋸歯になっており、その先端はかたいトゲになっています。直立して伸びる茎の太さは1cmほどで軟毛が多く、高さは50cm~1mに生長します。花期は6~8月で、茎の先端に眉刷毛に似た直径3~5cm大の花をつけます。花の形状は球状から筒状で、色は桃色から紫色。花後は綿毛を持った種をつけます。あざみの多くは葉や花にトゲがあり、スコットランドではそのトゲによって外敵から国土が守られたとされ、15世紀に国花となっています。
別の属のあざみたち
「あざみ」の名がついても、植物学上は別の属のものがあります。代表的なものは和名「チョウセンアザミ=朝鮮あざみ」と呼ばれる高級食材として有名な「アーティチョーク」。蕾の一部を食するアーティチョークはキク科キナラ属の植物で、カルドンといわれる巨大あざみが原種といわれています。その他「キツネアザミ」「ヒレアザミ」「ミヤコアザミ」「キクアザミ」などがあります。
江戸時代には栽培されていたあざみ
一般に栽培されているあざみは、野あざみを改良した花あざみで、別名「ドイツあざみ」とも呼ばれています。『本草図譜(ほんぞうずふ)』(江戸時代末期の本草書。約2000種の植物が分類されている。著:岩崎灌園)に野生種ではない色彩のあざみが掲載されていることから、当時からあざみの栽培が行われていたことが推測されます。
あざみの漢名
あざみの名が登場するのは古く、『本草和名(ほんぞうわみょう)』(平安時代に編纂された日本現存最古の薬物辞典。深根輔仁:著)に「阿佐美」、『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(10世紀初頭の12巻からなる漢和辞書)には「阿佐弥」と表記されています。また、「虎薊=大薊」「猫薊=小薊」「馬薊」「刺薊」「山牛蒡」「千針草」「野紅花」などの漢名があることから、古くからあざみには「薊」の字が当てられていました。「薊」は「鬢(がい)=髪を頭のてっぺんで束ねる」と同義で、あざみの花の姿が髪の毛を頭のてっぺんで束ねる姿に似ていることから、その字が当てられました。
あざみの名の由来
あざみの名の由来として、①『大言海』に「刺の多いのをアザム(傷つける、驚きあきれる)の意か」と説明している。「あざむ」は軽蔑するとか蔑むといった意味 ②『日本語源』(著:加茂百樹)に「花に紫と白とがアザミ(交)たる義」とあり、花の色が交互にまざり合っているから ③『日本古語辞典』(著:松岡静雄)に「アザ(似而非)ミ(実)であって、頭状花序が実と似ているから ④『植物名の由来』に「“傷むの”意を持つアサマ」が転訛して「アザム→アザム草」となり、このアサム草が転じて「あざみ」と呼ばれるようになったなどの諸説が名の由来として伝えられています。
英語の「thistle」、ドイツ語の「Distel」はともにインドゲルマン語の「つき刺す」を意味する語から出たと言われているように、名の由来は鋭いトゲが関係していると考えられています。(出典:『植物和名の語源』(著:深津正)
あざみの根で作られる土産物の「山ごぼう」
あざみの根は形や味がごぼうによく似ています。このあざみの根を味噌漬けなどにしたものは「山ごぼう」「菊ごぼう」などの名称で、土産物として販売されています。一般に土産物店で販売されている「山ごぼう」の多くは、栽培された「もりあざみ」の根で作られています。
本物の山ごぼうは有毒植物
本物の山ごぼうは学術上の種名はキク科ではなく、あざみとは類縁関係の遠いヤマゴボウ科。薬用にはなりますが、有毒植物なので要注意です。本物の山ごぼうを採取して食すと、食中毒を起こすので気をつけましょう。
生薬名は「薊(けい)」
夏から秋の開花期に採取した葉と根をよく洗った後に刻み、天日で乾燥させたあざみは、生薬名を「薊(けい)」「大薊(だいけい)」といい、特に止血効果が高く、利尿、解毒、子宮筋腫や月経不順、健胃、神経痛、湿疹、かぶれなどに用いられています。根部分を乾燥させたものは持続性のある血圧降下作用があるといわれています。民間療法として利用されてきた歴史を持ち、「すりつぶした根を腫れ物に直接湿布する」「葉の生汁を顔のはたけに付ける、腫れ物や湿疹の塗り薬にする」「すりおろした根のおろし汁を火傷や腫れ物、毒虫などの虫刺されにつける」「神経痛には根を煎じて飲む」などが伝わっています。
あざみ(薊)に含まれる主な成分
生薬名を「薊(けい)」と呼ばれ、ヨーロッパでも2000年以上も前から薬効高いハーブとされるあざみは、甘味で涼性(食べると涼しくなる)の性質を持っています。α―ヒマカレン、シリマリンなどの薬効成分、葉にはβ‐カロテンや葉緑素が含まれ、食物繊維も豊富です。
去痰作用や尿路系感染鎮痛作用を持つα‐ヒマカレン
α‐ヒマカレンやシリマリンはモノテルペン炭化水素類の一種です。モノテルペン炭化水素類はほとんどの精油に含まれている成分で、とくに柑橘系の精油に多く含まれています。また、抗真菌作用、抗ウイルス作用、鎮痛作用、抗炎症作用、うっ血除去作用などの幅広い働きを持っています。α‐ヒマカレンは去痰作用(粘液の流れを助ける)や尿路系感染鎮痛作用に優れ、シリマリンは肝臓に対する効果が有名です。アルコール性肝障害の予防と改善、胃粘膜の損傷を予防するなどの効能が知られています。
体内でビタミンAの働きをするカロテン
あざみの葉の緑色にはカロテンが含まれています。カロテンは体内でビタミンAの働きをする栄養成分で、上皮、器官、臓器の成長や分化に関係するため、特に妊婦や乳児には必要なビタミンです。不足すると粘膜乾燥により消化吸収の能力の低下や、呼吸器系の抵抗力低下などの障害が発生。また、視神経にも関与するので欠乏すると暗順応(暗い所に長くいると、目が慣れてだんだん物が見えるようになる現象)の反応性低下を引き起こします。そのまま体内に吸収されるビタミンAと違ってカロテンの吸収率は低いのですが、脂溶性なので油を使った調理法にすると、吸収率がグンと高まります。
光合成に欠かせないクロロフィル(葉緑素)が健康維持に働く
あざみの葉の緑色は、クロロフィル(葉緑素)と呼ばれる緑色をした色素です。クロロフィルの分子構造は血液に類似しているため、「植物の血液」とも呼ばれています。「増血や血液をキレイにする」「肝臓の強化」「損傷を受けた組織の修復」などの働きを持ち、私たちの健康維持に働きます。植物の光合成に欠かせない成分です。
※光合成:動けない植物が必要な栄養分(炭水化物)を自分の体の中で作る仕組み。太陽光・空気中の二酸化炭素・根から吸い上げた水を使って、葉緑体の中で栄養成分を作り出し、水を分解する過程でできる酸素は外に排出する。
生活習慣病の予防にも働く食物繊維
食物繊維は体内では消化できない炭水化物で、エネルギー源にはなりませんが「体の掃除係」として働くことから、「第6の栄養素」と呼ばれています。水溶性と不溶性があり、ともに整腸作用が強く、便秘解消やコレステロール値低下、有害物質排出などに働きます。適量ならばダイエットや発がん物質・コレステロールの吸収抑制に働きますが、過剰摂取は腸内で消化を待っているビタミン・ミネラル(特にカルシウムと鉄)の吸収率を下げてしまうので気をつけましょう。
あざみ(薊)のゆで方
鋭いトゲを持つあざみですが、ゆでたり加熱するとトゲは気にならなくなります。アクは中程度なので、ゆでる時間は短時間で十分ですが、苦味が気になる場合は30分くらい水にさらすと食べやすくなります。
あざみのゆで方
- あざみはよく洗い、水気をきる。
- 鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、塩少々を加え、水気をきったあざみを入れ1~2分ゆでる。
- ゆであがったらすぐに水に放し、30分水にさらし、水気をきる。