ヨーグルト
ヨーグルトとは
ヨーグルトとは
ヨーグルトは発酵乳の一種で、乳に乳酸菌を接種して発酵させ、カゼイン(牛乳のたんぱく質)を酸で凝固させた食品です。近年の腸内細菌研究の進展に伴い、腸内細菌がヒトの健康や老化に深い関係があることが明らかになるに連れ、ヨーグルトの知名度は上がり、今や全世界で健康食品・嗜好品として食されています。
ヨーグルトの歴史
ヨーグルトがいつ・どこで・どうして生まれたのかははっきりしていませんが、誕生の記録や伝説などは世界各地に数多く残っています。よく知られているのが、砂漠を旅する商人が羊の胃袋で作った水筒に山羊の乳を入れて旅していた所、開けてみたら中身が固まって酸っぱくなっていたといわれるアラビアの民話です。これに近い伝説は多くあり、たぶんに最初のヨーグルトはそのような偶然から生まれたと考えられています。
今から5000~6000年前の古代エジプトではすでに「飲むヨーグルト(=酸っぱい乳)」が食されていたと伝えられています。
日本のヨーグルトの歴史
日本では6世紀半ばに仏教とともに乳を利用する文化が中国から伝来します。それまで役牛として飼っていた牛から乳を取り、その乳で「酥(そ)(今のチーズ)」「酪(らく)(今のヨーグルト)」「醍醐(だいご)(今のバターオイル)」などが作られていたと言われています。701年には全国に「乳(にゅう)戸(こ)(牛乳をしぼる家)」が定められ、732年には年貢として「酥(そ)」を納めさせていたと文献に残っています。「酥」を納める制度は長く続きますが、武士が権力の中心になるにつれ牛の牧草地は軍馬用となり、やがて消滅していきます。
その日本でふたたびヨーグルトが脚光を浴びるのは1970年の大阪万博。万博のブルガリア館に展示されていたブルガリアヨーグルトのサンプルを、乳業会社の開発担当者が持ち帰り製品にしたことが、その後の日本でのヨーグルト市場拡大へとつながっていきました。
二人の研究者 イリア・メチニコフとスタメン・グリゴロフ
ヨーグルトが世界的に一躍注目を集めたのは、ノーベル生理学・医学賞を受賞したウクライナ(当時のロシア)のイリア・メチニコフの研究と、スタメン・グリゴロフのブルガリア菌発見によるものです。
不老長寿の研究をしていたメチニコフは、その研究過程で長寿者の多いブルガリアのスモーリャン地方でよく食されていたヨーグルトに着目します。そして1907年、メチニコフは著書でヨーグルトを不老長寿の食品として紹介します。時を同じくして、ブルガリア出身のスタメン・グリゴロフがヨーグルトの乳酸菌である3種類のブルガリア菌を発見します。
この二人の研究と発見により、ヨーグルトは「不老長寿の食品」として、一躍世界に注目され現在に至っています。
ヨーグルトに含まれる主な成分
「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」という言葉をご存知ですか。プロバイオティクスとは「腸内で体に有用な働きをする生きた微生物」のことで、代表格がビフィズス菌をはじめとする腸内乳酸菌です。プレバイオティクスとは乳酸菌などの腸内細菌のエサになって、しっかり働かせてくれる難消化性の食品成分のことで、オリゴ糖や食物繊維がこれにあたります。このふたつがうまく絡み合って働くことが生活習慣病を予防し、健康に貢献すると考えられています。
ヨーグルトに含まれる優れた成分を紹介しましょう。
ヨーグルトに含まれる栄養成分
ヨーグルトにはたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルなど、原料の牛乳が持つ栄養成分がすべて含まれています。ヨーグルトのたんぱく質は乳酸菌によって分解され、ペプチドやアミノ酸になっているため、牛乳よりも消化吸収に優れています。またカルシウムもたんぱく質や乳酸と結びついて吸収されやすい形になっています。栄養成分としてはカルシウムやビタミンB2を多く含んでいるのが特徴です。
乳酸菌の働き
ヨーグルトの中で生きている乳酸菌は、腸内でビフィズス菌などの善玉菌を増やし、乳酸や酢酸を作って悪玉菌を減らす働きを持っています。ビフィズス菌はビフィズス菌属に属する菌で、人間の腸内に棲み有用な働きをする善玉菌です。さらに腸内で作られた有害な物質を乳酸菌の体の中に取り込んだり、分解したりする機能があることも解明されてきています。それらの作用により、善玉菌を増やす乳酸菌を取ると、腸にウイルスや細菌が入るのを防ぐ、便秘を改善する、老化や生活習慣病を予防するなどの働きが出てくるのです。
人間は本来、腸内に乳酸菌をたくさん持っています。生まれて数日の赤ちゃんの腸内細菌の100%近くが善玉菌であるビフィズス菌をはじめとする乳酸菌です。ところが大人になるにつれて乳酸菌は減少し、成人になるとおよそ10~20%前後の善玉菌で腸内は安定します。しかし、年齢が高くなるにつれて安定していた善玉菌は減少をはじめ、やがて腸内の善玉菌は1%台まで減り、代わりにウェルシュ菌などの悪玉菌が増えていきます。メチニコフはこれを「腸内腐敗」と呼び、年齢とともに減少していく乳酸菌を増やして腸を若々しく保つことが不老長寿の夢に近づくと理論を展開したのです。
乳酸菌の種類や菌株で効果・効能が異なる
一口に乳酸菌といっても、その種類は膨大で、種類や菌株が違うと、効果・効能も異なります。お腹の調子を整える、ピロリ菌を減少させる、血圧やコレステロールを下げる、花粉症を予防・軽減するなど、ヨーグルトに含まれる乳酸菌の種類によって、その効果や効能は異なってきます。乳酸菌の種類を知り、どのような効果があるのかを知ることが、ヨーグルトを健康維持に役立てるキーワードになってきます。
ラクトバシルス属の乳酸菌がピロリ菌を減少させる
ヨーグルトは腸によいだけではなく、胃潰瘍や胃がんの原因になるピロリ菌を減少させる働きのあることが証明されています。ピロリ菌を減少させる乳酸菌はラクトバシルス属に属する乳酸菌で、仲間にブルガリア菌やカゼイ菌がいます。
ピロリ菌は胃酸に強い菌です。胃酸の中で生き続け、胃潰瘍や胃がんの原因となっていきます。しかし、ラクトバシルス属に属する乳酸菌が出す乳酸には弱いという性質を持っています。さらに、これらの乳酸菌が増えるとピロリ菌の繁殖に必要な栄養や環境が失われていきます。これらのことから、ラクトバシルス属の乳酸菌を摂取すると、ピロリ菌の生息環境が奪われ、生息することができずに減少していくのです。
花粉症の予防や軽減に働く乳酸菌
花粉症は腸内環境と深く係っていると指摘されています。そのため腸内環境を整えるヨーグルトの乳酸菌は花粉症予防や症状軽減に有効です。特に、「L-92株」と「KW乳酸菌」の2種類の乳酸菌は、臨床実験でその効能が確認されています。L-92株はカルピス社、KW乳酸菌はキリンビールが発見した乳酸菌で、摂取により「眼と鼻のかゆみが軽減された」と報告されています。
吸収されやすいカルシウム
ヨーグルトに豊富に含まれるカルシウムは、たんぱく質や乳酸と結びついて吸収されやすくなっています。カルシウムは骨や歯を形成する栄養素ですが、神経の伝達機能や神経の興奮を抑える、ホルモン分泌を円滑にする、筋肉の興奮を調整する、出血時に血をかためるなど、多機能に働く大切なミネラルです。日本人には不足気味と言われている成分で、積極的に摂取することが大切です。ヨーグルトのカルシウムは吸収されやすくなっているため、効率よく摂取することができます。
「美容のビタミン」ビタミンB2
ヨーグルトに豊富に含まれているビタミンB2は糖質の代謝にかかわり、脂肪の分解や合成に働くビタミンです。別名「美容のビタミン」とも呼ばれ、皮膚・爪・髪の発育に深くかかわり、体全体の抵抗力を高める働きも持っています。成長に必要なエネルギー代謝にかかわっているため、特に成長期の子どもや妊婦には欠かせないビタミンです。
ヨーグルトは、乳糖の一部が乳酸に変化している
牛乳を飲むと下痢をするという人は、牛乳の糖分を消化することができない「乳糖不耐症」の人です。その場合、温めた牛乳の量を少しずつ増やしながら飲み、体内に乳糖分解酵素を増やすことで乳糖不耐症を和らげ、下痢をしなくなる方法が取られています。が、その点ヨーグルトは乳糖の一部が乳酸に変化しているため、多くの場合、牛乳で下痢する人でもヨーグルトでは下痢をしないで飲むことができます。
ヨーグルトの水抜き
ヨーグルトの水抜きとは、ヨーグルトの水分を抜くことです。水分を抜いたヨーグルトはまるで生クリームのようになり、ヨーグルトを使った料理の応用範囲をグンと広げてくれます。水分が抜けるほどヨーグルトは固形化して量が減っていきますので、作る料理に応じて水抜きの時間は調整してください。冬場は冷暗所で十分ですが、夏場は冷蔵庫で水抜きします。
水抜きで出てくる水はホエーという成分です。「乳清」とも言い、水溶性のたんぱく質・ビタミン・ミネラルが含まれている栄養価の高い水分です。カレーやシチューなどに利用したり、はちみつを入れてドリンクとして飲用するなど無駄なく利用するとよいでしょう。
作り方
- ヨーグルトは布巾をかぶせたザルに入れ、水分を受けるボウルに乗せる。
- 冷暗所に数時間から数日間置き、水分を抜く。写真は3日間水抜きしたもの。
ヨーグルトレシピ
ヨーグルトは牛乳に匹敵する栄養価を持っている乳製品です。乳酸菌の働きによってたんぱく質やカルシウムが吸収されやすい形になっているため、乳幼児やお年寄り、病中病後でも無理なく消化吸収できる食品です。乳酸菌は酵素なので加熱に弱く、最も活発に活動する温度は35?40℃。60℃で30分、100℃以上なら数秒過熱で死滅します。しかし、死滅しても乳酸や乳糖は失われずに生き続け、腸内の善玉菌を増やして腸内環境の健康維持に働きます。加熱しない調理法がベストですが、過熱することで料理の幅も広がり、日常的にヨーグルトを料理に利用することができるようになります。実際、アラブ地方のヨーグルトの煮込み料理、インドのタンドリーチキンなど、世界にはさまざまなヨーグルトの加熱料理が存在しています。大切なことは、一度に大量のヨーグルトを摂取することではなく、量が少なくとも毎日食べ続けることが大切なのです。ヨーグルトにはビタミンCや食物繊維が含まれていません。ヨーグルトを食べる時に、この足りない栄養成分を上手に組み合わせて食べることで、ヨーグルト料理は栄養バランスに優れた健康食になります。