鍋料理特集

薬味

薬味は「薬」と「味」が合わさってつくられた言葉です。つまり薬味は「料理の味を引き立てると同時に、料理に薬効成分をプラスする」という、単に味をよくするというだけでなく効能も与えてくれるものであり、汁物や刺身など、和食では古くから欠かすことのできない存在でした。
昔、うどん屋さんで出してくれる薬味の刻みねぎは、「うどん屋の風邪薬」といわれていました。ねぎの持つ硫化アリルという成分が発汗や保温に効果のあることから、うどんに付いてくる刻みねぎは、ひきはじめの風邪に効果の高い食材として考えられていたのです。
また、「薬味」の入っていないみそ汁や吸いものは、「坊主汁」といって嫌われたといいます。薬味を添えることは体に薬効を取り入れることであり、薬味を添えないで出すことは、それを食べる人の健康に対する思いやりが欠けていると思われ嫌われたのです。
鍋料理での薬味の役割は、具と同じように大切です。鍋におススメの薬味を紹介しましょう。好みでたっぷりと添えてください。

薬味

すだち(酢橘)(奥左) 
まろやかな香りと酸味が疲れを癒す。
徳島県の特産で、ゆずの近縁種。まろやかな香りと酸味があり、果皮・果汁とも香辛料として利用される。クエン酸が多く含まれ疲労回復に効く。果皮にはカルシウムやカリウムなどのミネラル類が多く含有されている。
ゆず(柚子)(奥右) 酸味と香りが高く、疲労回復にも優れている。
果皮は厚く凹凸があり、香りが高い。果肉はやわらかく多汁で、酸味が強い。他の柑橘類に比べタネが多い。ビタミンC含有が高く酸味はクエン酸やリンゴ酸などの有機酸。抗酸化力が高く、疲労回復や肩こりに有効。
刻みゆず(左:へぎゆず 右:針ゆず)(中央)
へぎゆず:外皮だけを薄く親指大に切る。針ゆず:大きめにそいだ外皮を細かい千切りにする。
かぼす(手前左) 各種有機酸が食欲を増進させ、肩こりを予防する。
大分県特産で、ゆずの近縁種。独特の香りと酸味がある。ビタミンCや各種有機酸が豊富で、風邪の予防や食欲増進、疲れを取り肩こりなどに効果が高い。食酢用として珍重されていた歴史があり、果実酒にも向く。
レモン(檸檬)(手前右) ビタミンCが風邪を予防し美肌をつくる。
果皮は黄色がポピュラーで、ビタミンCやクエン酸が多く、果皮は精油を含有する。ビタミンCが風邪を予防し美肌をつくり、クエン酸が疲労回復に有効。ビタミンCは壊れやすく香りも飛びやすいので、食べる直前に絞るとよい。

薬味

ねぎ小口切り(葱)(奥左) ビタミンB1の効能を高め、疲労回復に効果がある。
もっともポピュラーな薬味。白い部分は「白葱(はくそう)」と呼ばれ薬効が高い。葉の部分は緑黄色野菜でカロテンが豊富。ツーンとくる刺激臭は硫化アリルで、ビタミンB1の効能を高める働きがある。
青じその千切り(青紫蘇)(奥右) 殺菌・防腐効果に優れている。
古くから薬として用いられてきた野菜。カロテンやビタミンC、ミネラル類が豊富で、特有の香りはぺルリアルデヒド。細菌類の繁殖を抑え食中毒を防止する。殺菌作用は細かく切ると効果が大きい。
大根おろし(手前左) でんぷん消化酵素が胸焼けや胃酸過多に効果が高い。
根の部分にはでんぷん消化酵素のアミラーゼが含まれ、胸焼けや胃酸過多、二日酔いに効果がある。皮の部分には毛細血管を強化するビタミンPが含まれている。葉に近い部分がおろしに向く。
おろししょうが (手前右) 強い殺菌力があり、風邪の予防や治療に有効。
多肉で強い香りと辛みがある。辛み成分はショーガオールとジンゲロン。ショーガオールは強い殺菌力を持ち、胃液の分泌を高めて食欲を増進させる働きがある。ジンゲロンは新陳代謝を促進し発汗作用を高める働きがある。

薬味

ごま(左:白ごま 右:黒ごま)(奥左) 動脈硬化の予防に優れ、老化を予防し、脳の働きを高める。
豊富な脂質は不飽和脂肪酸のオレイン酸やリノール酸で、血中コレステロールを下げ動脈硬化の予防に優れている。カルシウム、鉄などのミネラル類や、ビタミンB1やEなどが豊富に含まれている。
のり(奥右) 美肌効果に優れ、老化防止の効果が高い。
カロテンとビタミンCが豊富で、活性酸素を除去し、風邪を予防し肌を守り、メラニン色素の沈着を防いで美肌をつくる効果が高い。疲れを取るビタミンB1や過酸化脂質の生成を抑えるB2も多い。
かつおぶし(中央) 健脳効果に優れ、骨粗鬆症を予防する。
うまみ成分はイノシン酸。良質なたんぱく質を含有し、健脳効果の高いDHAや動脈硬化を予防するEPAが豊富に含まれている。カルシウムやビタミンDも豊富なので骨粗鬆症の予防に有効。鉄分も多い。
粉さんしょう(手前左) 山野に自生する古来からの香辛料。
若葉は「木の芽」と呼ばれ芳香があり、実は特有の辛みと苦みがあり、ともに香辛料として利用される。香り成分はシトロネラールやジペンテンで、辛み成分はサンショール。食欲を増進させ、健胃効果に優れている。
七味とうがらし(手前右) 食欲を増進させ、風邪予防に優れた香辛料。
江戸時代初期に誕生した混合香辛料。粉末とうがらし、ごま、粉さんしょう、麻の実、しその実、陳皮(みかんの皮を乾燥させたもの)、青のりなど、風邪予防に効果の高い7種類の食材を調合してつくられている。

土鍋の使い方

土鍋

鍋料理に欠かせない土鍋は、ひとつあると便利で重宝します。
土鍋の優れている点は、熱の伝わり方がおだやかなので煮ながらいただくのに適していること、そして保温性が高いので冷めにくいことでしょう。
登場するのは寒い冬が圧倒的ですが、手入れをきちんとしておけば、いつまでも使うことができます。

初めて使う時はここに注意!

新しい土鍋を使う時は、まず米のとぎ汁を土鍋の7~8分目まで入れます。ふたをしないで弱火で10分位煮てから火を止め、鍋が冷めるまでそのままにしておきます。こうすることで、目に見えない土鍋の小さな穴がふさがれ、また土鍋特有の土臭さも消すことができます。米のとぎ汁の代わりに小麦粉を水で溶いたもので代用もできます。

使う時はここに注意!

土鍋を火にかける時は、必ず底をふいてから、そして強火ではなく中火か弱火でスタートしましょう。土鍋の底がぬれていたり、いきなり強火にかけたりするとヒビが入ることがあるので注意しましょう。

しまう時はここに注意!

土鍋は冷めてから洗い、乾いた布で全体をよくふきます。それから底を上にして完全に乾かします。水気が残っているとカビが生えることがあるので気をつけましょう。水気を飛ばすために、ごく弱火で10分位、ふたをしないで空炊きしてもよいでしょう。

土鍋にヒビが入ったら

注意して使っても、土鍋は長年使っているとヒビが入ることがあります。外側にヒビが入ると汁が漏れて危険です。そんな時はまず、土鍋に米と水を入れ、弱火でおもゆに近い三分がゆをつくります。トロミが出てきたらそのまま弱火で20~30分煮込んでください。米のトロミがのりの役割として働き、ヒビのすきまに入り込み、すきまをふさいでくれます。火を止めたらそのまま30~40分、完全に冷めるまでそのままにし、後はやわらかい布やスポンジで水洗いを。これでほとんどのヒビ割れ補修はOKです。

ひとり鍋・ふたり鍋のススメ

寒い季節に体の中から温まる鍋料理は、冬の寒さを乗り切る体力をつけるために、先人たちの知恵が生み出した日本の冬の代表的な食べ物です。鍋のルーツははるか縄文時代に遡り、大ブームとなったのは江戸時代といわれています。
 鍋ひとつに旬の食材があれば、場所を選ばずどこでもつくることができ、熱々を食べることができます。一人でも二人でも人数が増えても、もちろん、細かい分量もレシピも気にしなくて大丈夫。里・山・海の多種多様な食材を一緒に煮込むことで、それぞれの栄養素が醸し出されて混ざり合い、鍋の中は栄養バランスに優れたエキスの宝庫と変化します。
 ひとり暮らしは偏った食生活になりがちです。そんな時は鍋調理にしてみましょう。食材は何でもOK。ついつい不足しがちな野菜も加熱することでカサが減り、たっぷり取れること請け合いです。栄養素の溶け出た汁にごはんやおもち、麺類を入れれば、糖質もしっかり取れて、栄養バランスもパーフェクト、後片付けが楽なのも嬉しいですよね。
 薬効や各種ビタミン類やミネラル類が豊富な薬味を豊かに揃えて、冬に注意したい風邪やインフルエンザに負けない体力をつけましょう。

鶏団子のにんにく入りごま味噌鍋

鶏団子のにんにく入りごま味噌鍋
松の実とごまをたっぷり使った鍋です。種実類にはビタミンEが豊富に含まれており、大豆を醗酵させた味噌も同様で、一緒に取ることで老化防止に優れた食べ合わせになります。ブロッコリーやしめじ、にんにくは抗酸化力の高い食材で、細胞の酸化を防いで老化予防に働きます。

鮭の粕汁鍋

鮭の粕汁鍋
鮭の赤い色は抗酸化力の高いアスタキサンチンで体内に吸収されるとビタミンA効果を発揮し、細胞の酸化を防いで老化予防に働きます。さといものヌメリ成分ガラクタンは脳細胞を活発にして免疫力を高める働きを持っており、酒粕と味噌をプラスすることでより一層の老化防止が期待できる食べ合わせになります。さといものヌメリは落とさないように利用しましょう。

豆腐白玉とゆで卵の鍋

豆腐白玉とゆで卵の鍋
豆腐とカシューナッツに含まれるビタミンEは「老化防止のビタミン」と呼ばれるように、脂肪の酸化を防ぐと同時に過酸化脂質(酸化した脂質)が多くなるのを防ぐ働きを持っています。ビタミンEが豊富な厚揚げや卵黄レシチンを含む卵と一緒に取ると、老化防止や血管強化に優れた食べ合わせになります。

豚肉のビール鍋

豚肉のビール鍋
ビールは麦芽から作るアルコールで、栄養価が高いことから「食べるパン」とも呼ばれています。疲労回復に優れたビタミンB1・腸内環境を整える食物繊維・脳細胞を活性化させる核酸やレシチンを豊富に含んでいるため、豚肉と一緒に取ると力がついて脳が元気になる食べ合わせになります。ビールで煮ると肉がやわらかくなるので、しっかり火を通したい豚肉にはおススメです。

ねぎま鍋

ねぎま鍋
ねぎま鍋はねぎとマグロで作る江戸っ子が好んで食べた鍋として有名です。マグロは不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(イコサペンタエン酸)を豊富に含んでおり、特にDHAは健脳作用に優れ、記憶力や集中力を高めます。マグロのたんぱく質はアミノ酸バランスに優れ、免疫力を強化。油揚げのレシチンが脳の活性化をさらに高めます。

信田入り味噌鍋

信田入り味噌鍋
油揚げ・納豆・豆腐・味噌の原材料である大豆は、「畑の肉」と呼ばれるように良質なたんぱく質と脂質、ビタミンE、レシチンなどを含んでいます。ビタミンEは脂肪の酸化を予防し、レシチンは脳細胞活性化に働きます。チーズを補うことで健脳効果がさらに高まり、かぶのアミラーゼが胃腸を整えます。

ごままぶし豚肉のキャベツ鍋

ごままぶし豚肉のキャベツ鍋
豚肉は肉類の中で一番ビタミンB1含有が高く、糖質を分解して疲労や食欲不振、肩こりなどの解消に有効に働く食材です。ビタミンB1を豊富に含むごまと硫化アリルを含むねぎと一緒に取ると、ビタミンB1の吸収率が高まり、疲労回復力が高まり食欲不振が解消されます。食物繊維も豊富なので高い整腸作用が期待できます。キャベツは加熱すると甘みが生まれます。

ブリのすき焼き風鍋

ブリのすき焼き風鍋
ブリは日本各地の沿岸に分布する回遊魚で、成長につれて名前が変わる出世魚です。良質なたんぱく質と脂質、ビタミン類(B1、B2、D、E)を豊富に含み、豚肉に匹敵するほどのビタミンB1を含む焼き豆腐と一緒に取ると、体力が強化されて疲労回復に優れた食べ合わせになります。卵のたんぱく質は必須アミノ酸を含有し、免疫力を増強して風邪を寄せつけません。

小豆鍋

小豆鍋
小豆の主成分は糖質とたんぱく質で、ビタミンB1や食物繊維などを豊富に含み、昔から栄養補給や疲れを取り去り体調を整えるために定期的に食べられてきた食材です。かぼちゃとさといもを一緒に取ると、胃腸の働きが高まり、体力増強、疲労回復に有効な食べ合わせになります。肩こりや筋肉痛にも有効です。

鶏手羽元の飛鳥鍋

鶏手羽元の飛鳥鍋
鶏手羽肉に豊富に含まれるコラーゲンは、体内のたんぱく質の1/3を占める栄養成分で、肌の弾力に大きく影響します。コラーゲンはビタミンCと一緒に取ると効果的なので、じゃがいもや水菜と一緒に取ると、コラーゲン摂取量が高まり弾力のある肌作りに優れた食べ合わせになります。牛乳のビタミンAとにんじんのβ‐カロテンが、より一層皮膚の粘膜を強化し、肌荒れ予防に働きます。

ウナギ鍋

ウナギ鍋
ウナギは極めて効率のよいビタミンAを豊富に含んでいます。ビタミンAは内臓や皮膚などの粘膜を強化し、風邪や夜盲症などの予防に働きます。ウナギ・ブロッコリー・ほうれん草・ごぼうを一緒に取ると、ビタミンA・C・B2や食物繊維の作用で腸の働きが整えられ潤いのある肌が作られる食べ合わせになります。

だまこ鍋

だまこ鍋
だまことはつぶしたごはんを直径3㎝くらいに丸めたもので、だまこを入れた「だまこ鍋」は秋田県の郷土料理です。消化のよい鶏ササミ肉とほうれん草を白菜で巻くと、ビタミンA・ビタミンCが豊富に取れ、ごぼうのセルロースやリグニンなどの食物繊維が加わることで整腸作用が整い肌荒れ予防が高まる食べ合わせになります。ごまのビタミンEが老化防止効果をさらに高めます。

牛肉鍋

牛肉鍋
牛肉はアミノ酸スコア満点のたんぱく質、脂質、鉄分などを含む栄養価の高い食品です。豊富に含まれるビタミンAが、ビタミンCを豊富に含む白菜・れんこん・ねぎと一緒に、風邪の予防に力を発揮します。白菜・れんこん・ねぎの食物繊維が牛肉の脂質を体外に排出するので、肉の食べ過ぎを心配することのない食べ合わせになります。

アナゴ鍋

アナゴ鍋
ビタミンAが豊富なアナゴは風邪を予防し、美肌を作り、眼に栄養を与えて視神経の働きを高めます。アナゴの良質な動物性たんぱく質と、麩の植物性たんぱく質を一緒に取ることでエネルギーが高まります。水菜にはビタミンCが豊富に含まれているので、栄養素を無駄なく取り入れるためにも加熱時間は短くしましょう。

おろし鍋

おろし鍋
ビタミンCがたっぷりの大根おろしとかぶ、β‐カロテンが豊富なにんじんと小松菜で作る鍋は、皮膚や粘膜が強化され、風邪予防や美肌を作る食べ合わせです。高い抗酸化力が免疫力強化に働き、小松菜のカルシウムがしいたけのビタミンDによって効果が倍増するため、骨や歯が強化され骨粗鬆症の予防にも有効です。車麩で良質なたんぱく質を補います。大根おろしの消化酵素は加熱すると失活するので、具材が煮えてから加えましょう。