報恩講汁

報恩講汁は、真宗高田派と東西両派に広く浸透している北中勢地方の料理で、「お講汁」とも呼ばれ、1月15日を頂点とする高田本山の「お七夜」にも出される料理です。報恩講とは浄土真宗の宗租・親鸞聖人の法要で、信徒にとっては一年でもっとも大切な行事です。この時に大根と油揚げを赤味噌でやわらかく煮込んだ報恩講汁が振舞われます。地域によっては丸ごとのさといもを使ったり、砂糖を加えたりして一度にたくさん作り、何度も煮返して食べます。煮返すごとに大根に味噌味が浸み込み、体の芯から温めてくれます。

僧兵鍋(そうへいなべ)

肉やにんにく、季節の野菜で作る味噌仕立ての僧兵鍋は、伝教大師が建立したといわれる天台宗山岳寺の僧兵たちが力をつけるために食べたスタミナ食です。山岳寺は戦国時代に武家の侵略に対して戦った寺として有名で、一時は数百人の僧兵がいたといわれています。かつてはイノシシ・シカ・山鳥などの肉で鍋が作られていましたが、今では豚肉や鶏肉が使われています。味噌仕立ての鍋は、寒い時期には体の中から温まる栄養満点の鍋料理です。

焼きサバそうめん

焼きサバそうめんは滋賀県湖北地方の長浜周辺で古くから食されていた郷土料理です。湖北地方は内陸部ですが、サバの水揚げが多い若狭湾の近くに位置することから、焼きサバは一般的な食材として広く利用されていました。湖北地方には一年で最も忙しい農繁期に焼きサバを送るという「五月見舞い」という風習がありました。この風習は農家へ嫁いだ娘を気遣う親心から誕生したと言われています。親から送られた焼きサバを、娘はそうめんと炊き合わせることで、忙しい農繁期の手軽な料理を生み出したと伝えられています。

へらへら団子

小麦粉と上新粉で作るへらへら団子は、神奈川県横須賀市佐島地区に伝わる伝統的な郷土菓子です。団子を平たく押しつぶした形が、ペラペラしていることから「へらへら団子」と呼ばれるようになったといわれています。江戸時代から受け継がれている佐島の船祭りの時には、豊漁や無病息災を祈願して真鯛と一緒に奉納されています。各家庭によって形や味つけに微妙な違いがありますが、「家庭の味」「船祭りの味」として広く浸透している郷土菓子です。

冶部煮

冶部煮は石川県を代表する郷土料理です。名の由来としては①加賀藩の兵糧奉行岡部冶部衛門が考案した ②キリシタンが伝えた ③トロミのある汁がジブジブと煮える音をするから など諸説あります。肉の切り身に片栗粉をまぶして加熱することで、肉のうま味が閉じ込められ、だしに適度なトロミがつき、わさびを添えて食します。加賀名物のすだれ麩を使い、冶部煮椀と呼ぶ広口で浅い漆椀に盛り付けるのが一般的で、結婚式などの祝いの膳には欠かせない料理となっています。材料は季節によって変化し、冬は鴨肉、秋にはイモ類やカキが使われます。

のっぺい汁

のっぺい汁は全国各地に古くから伝わっている郷土料理です。季節の具材を煮てから葛粉などでトロミをつけます。そのため汁が粘ってぬるりとすることから、「ぬっぺい→のっぺい」と呼ばれるようになったといわれています。しかし、新潟県の「のっぺい汁」は葛粉などを使わずにさといもで自然にトロミをつけるのが特徴です。汁と呼ばれていますが、汁物というよりも煮物に近く、冷ましてから食すこともあります。新潟特産の鮭を入れるなど、具材は新潟県内でも多彩なバリエーションがあり、盆や正月などのハレの日には必ず作られる家庭料理です。

いもがらとにんにくの白和え

秋田県雄勝町(現湯沢市)で、冬に町内で行われる内神様のお祭りや、観音祭りに作られる伝統的な郷土料理です。内神様のお祭りでは「梅なます」と一緒に、生ものが使われない観音祭りでは「神様へのおもてなし料理」として供される料理です。いもがらはさといもの葉柄を干したもので、「干しずいき」とも呼ばれています。特に冬の長い地方で多く生産され、雪深い季節の貴重な保存食品として利用されている食べ物です。

鶏飯(けいはん)

鶏飯は鹿児島県奄美大島の郷土料理です。琉球王国が薩摩藩の支配下になった当時、時の代官のもてなし料理として供された琉球の宮廷料理「菜飯(セーファン)」が原型といわれています。鹿児島県の鶏飯はごはんの上に具をのせ熱々のだし汁をかけますが、沖縄県では「ケーファン」と呼ばれ、鶏肉を入れた炊き込みご飯にだし汁をかけて食します。薬味としてパパイヤの漬物や島みかんの皮など、南国ならではの食材が使われるのが特徴です。鶏飯は「きびなご料理」「さつま揚げ」とともに鹿児島県を代表する郷土料理であり、学校給食にもよく登場する人気メニューです。

カツオの角煮

高知県旧佐賀町(現黒潮町:2006年大方町と合併)はカツオの水揚げ量が県下一の地域です。佐賀町では通年カツオが捕獲され、大量に取れた時はどこの家庭でも角煮を作ります。角切りしたカツオにしょうがを加え、しょう油・みりん・酒などで絡めるように煮詰めて作られる角煮は、保存性が高く、おかずや酒の肴として、日常的の食卓に欠かせない常備菜となっています。

大平(おおひら)

「大平」は山口県東部の郷土料理です。器として直径50cmほどもある大きな平たい椀が使われることから、「大きな平たい椀→大平」と呼ばれるようになったといわれています。野菜や鶏肉、山菜などをたくさん入れて作る汁気の多い煮物です。岩国地方では、「大平」「岩国寿司」「れんこんの酢の物」の三つは祝い膳に欠かせない郷土料理といわれています。かつてはどこの家でも大平椀があり、20~30人分の大平を作るのは力仕事であったため、具材を煮るのは男性の役目であったと伝えられています。