すべりひゆ
すべりひゆとは
乾燥に強く、旺盛な繁殖力を持つ
すべりひゆはスベリヒユ科スベリヒユ属の一年草で、熱帯から温帯の広い範囲に分布し、日本では日当たりのよい畑・道端・空き地などに自生している野草です。乾燥耐性(乾燥に強い)があり、その旺盛な繁殖力から畑作の害草として嫌われている一方、栄養価のある野草として栽培したり食用したりする地域もあります。葉・茎は多肉質で、葉は長円形ですべすべしていてつやがあり、茎は紅色を帯び、地を這って枝を出します。7~9月の夏から秋にかけて枝先に黄色の花を咲かせますが、早朝に花開き、午前中にしぼんでしまうため、花を見ることはあまりありません。
名の由来
茹でるとヌメリが出るその様から、すべりひゆと呼ばれるようになったと言われています。また、「根=白、茎=赤、葉=緑、花=黄、種子=黒」の様子から「五色草」、中国では「長命菜」「長寿菜」などとも呼ばれています。地域によって「アカジャ」「トンボグサ」「ヌメリグサ」「ネガタ」「タコクサ=タコ足のように生える」「ヒョウ=ひょっとしていいことがあることを願う」などの別名でも呼ばれています。また山形県ではすべりひゆを「すべらんそう」とも呼び、受験時のゲン担ぎに食べると言われています。
鑑賞用松葉牡丹と同種同属
すべりひゆは松葉牡丹の仲間の野草です。姿形も非常によく似ており、観賞用に「花すべりひゆ」という品種が栽培されています。花すべりひゆは松葉牡丹に似た大き目の美しい花を咲かせます。
美味な健康草として世界で食されている
旺盛な繁殖力から畑の雑草として嫌われているすべりひゆですが、一方、美味な健康草として日本各地で食用もされています。ヨーロッパでは高温に強く耐乾性のあるすべりひゆは「プルピエ」と呼ばれる人気野菜で、特にギリシャや中近東で好まれ、クレタ島ではサラダと一緒に食べられています。日本では山形県で「ひょう」と呼ばれ、山菜の一種として食され、全草を干したものは保存食として利用されています。沖縄県では「ニンブトゥカー(念仏鉦)」と呼ばれ、古くから食され、葉物野菜の不足する夏季に重宝される野菜となっています。一般に若葉は生食され、生長した葉は香味野菜として利用されています。
クレソンに似た辛みを持つプレピエ
ヨーロッパで人気のあるプルピエはスベリヒユ科スベリヒユ属の一年草で、園芸植物の花すべりひゆの仲間です。原産地は北アメリカで、今ではフランス・ドイツなどのヨーロッパ各国で栽培されています。日本には明治初期に導入されたと伝えられていますが、現在国内で出回っているプルピエはヨーロッパ野菜として輸入されているものです。食用植物の中でオメガ3脂肪酸を最も多く含む健康野菜として市場での人気も高く、クレソンに似た辛みとかすかな酸味を持っています。プルピエはフランス語で、英語では「パースレーン」と呼ばれています。
生薬として利用
全草を乾燥させたものは、生薬名「馬菌莧(ばしけん)」と呼ばれ、利尿、解毒、血便・血尿、盲腸炎、できものなどに効能があるとされています。民間療法として生葉の汁を虫刺されやかゆみ止めに利用、全草を煎じて利尿、あせもや子どもの湿疹の湯浴などに効果があると伝承されています。
すべりひゆに含まれる主な成分
すべりひゆはたんぱく質、糖質、食物繊維、ミネラルやビタミンを含む健康強壮野草です(生にはビタミンAやC、乾燥したものにはビタミンB1やB2が多く含まれる)。特にω‐3脂肪酸を一番多く含む食用野草と言われ、グルタチオンも多く含まれています。
中性脂肪減少などに働くω‐3脂肪酸(オメガサンシボウサン)
すべりひゆには食用植物の中でもっとも多くのω‐3脂肪酸が含まれています。ω‐3脂肪酸は不飽和脂肪酸のひとつで青魚などに含まれるDHAやEPA、植物では亜麻仁油やしそ油などに含まれるα‐リノレン酸などがあり、中性脂肪減少、動脈硬化予防、アレルギー症状緩和などの働きを持っています。FDA(米食品医薬品局)では「2005年度版アメリカ人の栄養ガイドライン」としてω‐3系脂肪酸を含む魚・木の実・ベジタブルオイルの摂取を推奨しています。
グルタチオンの抗酸化力がシミやシワを予防する
すべりひゆに含まれるグルタチオン濃度はほうれん草よりも高いと言われています。グルタチオンはグルタミン酸、システィン、グリシンの3つのアミノ酸からなる高い抗酸化力を持つ成分です。細胞を活性酸素などから守り、シミやシワなどの老化防止や肝機能向上、皮膚障害や角膜損傷などの予防・改善に働きます。グルタチオンは動物の肉に多く含まれていますが、熱や水に弱いため、調理法を工夫して損失量を少なくすることが大切です。
生活習慣病の予防にも働く食物繊維
食物繊維は体内では消化できない炭水化物で、エネルギー源にはなりませんが「体の掃除係」として働くことから、「第6の栄養素」と呼ばれています。水溶性と不溶性があり、ともに整腸作用が強く、便秘解消やコレステロール値低下、有害物質排出などに働きます。適量ならばダイエットや発がん物質・コレステロールの吸収抑制に働きますが、過剰摂取は腸内で消化を待っているビタミン・ミネラル(特にカルシウムと鉄)の吸収率を下げてしまうので気をつけましょう。
生命維持や生命活動に欠かせないたんぱく質・脂質・炭水化物
たんぱく質はアミノ酸の重合体で、人体の水分を除いた重量の1/2以上を占める体の構成成分です。脂質はエネルギー源となるばかりではなく必須脂肪酸の多価不飽和脂肪酸は細胞膜の構成成分として、また血液中のコレステロール輸送の代謝に関与するリポたんぱく質の構成成分としても重要な成分です。炭水化物は自然界にもっとも多く存在する糖およびその重合体の総称で、単糖の数によって単糖類・少糖類・多糖類に分類され、動物ではグリコーゲン、植物ではデンプンとして存在しています。これらたんぱく質・脂質・炭水化物は生命維持や生命活動に欠かせない栄養成分のため、「三大栄養素」と呼ばれています。
極微量で他の栄養素の働きをスムーズにするビタミン類
すべりひゆにはビタミンA・C・B1・B2などのビタミン類が含まれています。ビタミンAは上皮、器官、臓器の成長や分化に関係するため、特に妊婦や乳児には必要なビタミン。ビタミンCは抗酸化性を有し、抗壊血病作用に留まらない多岐にわたる生理作用を持っている水溶性のビタミン。ビタミンB1は糖代謝に働き正常な発育や生殖作用に働く不可欠な水溶性のビタミン。ビタミンB2は脂肪の代謝を助ける水溶性のビタミンで、成長に欠かせないため「発育のビタミン」とも呼ばれています。これらのビタミンの働きにより、体の生理機能が整えられます。ビタミン類は血や肉、エネルギーになる栄養素ではありませんが、極微量で他の栄養素の働きをスムーズにします。
すべりひゆのゆで方
すべりひゆは草全体が肉質で表面がすべすべしており、アクは「弱」。若葉は生食可能ですが、若葉以外はさっと茹でて水に放してから利用します(天ぷらや汁の実にする場合は茹でなくてOK)。美味しくいただくコツは、茹ですぎないこと。アクは「弱」なので水にさらす時間も短時間で十分です。
すべりひゆのゆで方
- すべりひゆはよく洗い、水気をきる。
- 鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、塩ひとつまみを加え、水気をきったすべりひゆを入れ軽くゆでる。
- ゆであがったらすぐに水に放してアクを抜き、水気をきる。
すべりひゆレシピ
独特のぬめりを持つすべりひゆは、地域によっては山菜の一種として扱われる強壮食品です。ゆでたものを天日干しにしてぜんまいのように保存食とすると、一年中利用することができます。ω‐3脂肪酸を多く含む野草として知られ、ゆでて和え物や酢の物など、天ぷらやきんぴら、みそ漬け、汁の実などに利用されています。
たんぱく質や脂質などと一緒に食べ合わせると、栄養バランスに優れた健康レシピを作ることができます。収穫後、ビニール袋に入れて冷蔵庫に入れておけば、2~3日は保存可能です。酸味が強いので食べ過ぎには気をつけてください。