すぎな
すぎな(杉菜)とは
日本各地のいたる所に自生する野草
すぎなはトクサ科トクサ属の落葉性多年草で、北海道から九州までの日本各地いたる所(田の畔、山野、道端など)に自生する野草です。春の風物詩とも呼称されるつくしと同じ根茎から誕生し、つくしが終わった後に青々とした姿を現します。すぎなとつくしの先祖は水辺に生えていた「蘆木(ろぼく)」という古生代の大型本木樹木だったといわれ、環境の変化に適応しながら現在のような姿に変わったと考えられています。すぎなという呼称は姿が杉の樹に似ていることがその名の由来といわれ、英名のhorsetail(ホーステール)は「馬の尻尾」の意です。
古来より効能が高い薬草として利用
すぎなの分布はユーラシアや北米大陸です。日本では中国伝来の植物が民間療法で多く利用されていますが、すぎなはポルトガルとの交易が盛んだった江戸時代にその効能が伝えられたといわれています。ヨーロッパでは効能の高い薬草として研究が進み、近世後期の薬物学者宇田川榛斎(うだがわしんさい)著『和蘭薬鏡(おらんだやっきょう)』(オランダの薬学書の翻訳本)では「内外諸部の潰瘍や糖尿病に用いる」と著されています。一方、中医学(中国伝統医学)では、成長期に刈り取ったすぎなの全草を乾燥させたものを「問荊(もんけい)」といい、服用することで利尿作用が高まり、腎炎や膀胱炎などの泌尿器系の改善に有効とされています。
セバスチャン・クナイプ神父
ドイツのセバスチャン・クナイプ神父(1821~1897年 自然療法医)は、自身と多くの患者の実体験から、すぎなには膀胱炎・腎臓・結石・カリエス・がん性肉腫・リウマチなどに効能があると発表しています。1891年に植物成分の実を用いた製薬会社「クナイプ・ベルケ社」、翌年には国際クナイプ医師連盟が設立され、クナイプ神父の提唱した自然療法は、最も有効な「体の根本治療」として継承されています。
様ざまな民間療法が報告、発表されている
すぎなの効能については、ヨーロッパを中心に様ざまな報告が発表されています。スイスのキコンツレ神父は老年期に達したすべての人に毎日すぎな茶を1杯飲むことを推奨し、「毎日1杯のすぎな茶を飲むことでリウマチ・関節炎・神経痛を予防する」ことができると報告しています。また、オーストラリアのリヒァルト・ヴルフォート(生物学者)は、スギナ茶の長期飲用でがんの成長をくいとめ、ついにそれをくずすと報告。日本の東条百合子さんは煎じたすぎなは、がん・糖尿病・腎臓炎・結石・肝臓病・慢性気管支炎などに有効と発表しています。
2008年、日本珪素医科学学会が創設される
1878年、ルイ・パスツール(フランスの生化学者・細菌学者)はシリカが多くの病気の重要な治療物質であることを発見し、健康に重要な役割を果たすようになると予測しています。このようにヨーロッパでは早い時期から研究が進み認知されています。一方、日本では2008年、日本珪素医科学学会が創設され、「珪素は活性酸素を除去し、細胞を活性化させ、いつまでも若々しさを保つ鍵を握る」と発表しています。
すぎなに含まれる主な成分
その旺盛な繁殖力ゆえに日本では雑草扱いされているすぎな。しかし、ヨーロッパでは薬草として研究され、広く利用されている野草です。全草にクロロフィル(葉緑素)、フラボノイドのエキセトニン、βシトステロール、カリウムやカルシウムなどのミネラル類や、ビタミンB群、ケイ素などを含み、体の生理機能を整え健康維持に優れています。特にケイ素が豊富に含まれ、このケイ素と解明されていない未知の成分が、すぎなの様ざまな効能の基盤となっているといわれています。
ケイ素とは
ケイ素は地殻中に酸素に次いで多く存在する元素です。ラテン語のケイ素「火打石、硬い石」が名の由来で、1823年に発見されました。ケイ素は工業分野ではセラミックス・セメント・ガラス・ゼオライト・研磨剤・シリコーン樹脂・太陽電池・ワックス・コンタクトレンズなど、ありとあらゆるものに利用されていますが、健康上でも欠かせない成分です。「特に骨の中で発達促進している部分に多く含まれ、骨の成熟に欠かせない」との論文が発表されています(東京大学 中村栄一教授)。
骨や爪がもろくなり、血管に脂肪がつきやすい
ケイ素は骨の形成初期段階で、カルシウムのコラーゲン沈着を助けて骨の強化に働きます。そのため、不足すると骨や爪がもろくなり、爪が割れやすい・髪が抜けやすいなどの症状が出てきます。また、動脈硬化が進行した人の動脈は健康な人の動脈に比べてケイ素含有が低いとの報告があり、ケイ素不足は動脈硬化を進行させると指摘されています。さらに、血管に脂肪がつきやすいとの研究も発表されています。そのような臨床実験を踏まえて、ドイツではケイ素サプリメントが普及していると伝えられています。
竹のような節にシリカが濃縮されている
すぎなの茎をよく見ると、竹のような節があります。この部分にシリカ(二酸化ケイ素)が濃縮されており、外傷や潰瘍に有効に働きます。また、手で触ると感じるゴアゴアがありますが、この触感がケイ素で、太陽エネルギーを効率よく吸収し、葉緑素で光合成を促進します。※シリカ=ケイ素の酸化物。
ケイ素を多く含む食品
玄米、粟、すぎな、アルファルファ、ほうれん草、にんじん、豆類、ホタテ、バナナ、りんごなど。
光合成に欠かせないクロロフィル(葉緑素)が健康維持に働く
すぎなの成分としてケイ素に次いでクロロフィルがあげられます。クロロフィルは葉緑素とも呼ばれる緑色をした色素で、植物の葉が緑なのは葉緑素が緑色をしているからです。また分子構造が血液に類似しているため「植物の血液」とも呼ばれています。「増血や血液をキレイにする」「肝臓の強化」「損傷を受けた組織の修復」などの働きを持ち、私たちの健康維持に働き、光合成に欠かせない成分です。
アテローム動脈硬化の予防に有効
豊富に含まれるケイ素と同時に、すぎなにはサポニンの一種であるエキセトニンやステロイドのβシトステロールなどの有効成分が含まれています。エキセトニンは「泡立つ」という意味を持つサポニンの一種でコレステロールの吸収抑制に働き、βシトステロールは特に胚芽油に多く含まれコレステロール低下や抗炎症作用を持っています。これら成分の相乗作用により、アテローム動脈硬化に対して有効に働くと報告されています。
※アテローム動脈硬化とは:アテローム(あるいはプラーク)と呼ばれる脂肪性物質のまだらな沈着物が、中動脈や大動脈の内壁で大きくなることにより、血流減少や血流遮断が起こる病気。動脈壁が沈着物により肥厚して弾力性がなくなる動脈硬化の中で、もっとも多くみられる
すぎな茶とすぎな粉の作り方
すぎなは5~7月頃の成長期のものを地上部から取り、お茶や粉にして利用します。すぎなには利尿作用があるので、むくみ予防をはじめ腎炎や膀胱炎など泌尿器科系に効果を発揮します。また、糖尿病や高血圧、がんや慢性気管支炎などにも有効で、煎じた方がその効能は高くなるといわれています。一方、効能・薬効のある野草は、疾患を持っている場合にはマイナスに働くこともあるので、多飲や多食には気をつけましょう。
すぎなは成長期を過ぎると、あっという間に姿を消してしまう野草です。この時期に一年分を摂取し保存しておくとよいでしょう
すぎな茶
- 地上部から刈り取ったすぎなはよく洗い、ザルに広げて干す。1~2時間は太陽の光に直接当て、その後、半日陰で1週間ほど干す。
- 乾燥して白っぽくなったすぎなを1cm長さに切り、密閉容器で保存する。
- 急須にひとつまみのすぎなを入れ、熱湯を注いで5~6分蒸らす。 ※すぎなの量や蒸らす時間は好みで変えてください。
※煎じて飲む場合:水1ℓに対してすぎな大さじ1~2をやかんに入れて火にかけ、沸騰したら弱火にし、7~8分コトコト煮る。
すぎな粉
- 地上部から刈り取ったすぎなはよく洗い、ザルに広げて干す。1~2時間は太陽の光に直接当て、その後、半日陰で1週間ほど干す。
- 乾燥して白っぽくなったすぎなを細かく刻む。
- ミルで粉末にする。
- 密閉容器で保存する。
すぎなレシピ
場所を選ばず群生するすぎなは生命力の強い野草です。4月頃に芽生えるすぎなの若葉は生食に、5~7月のすぎなは半日陰で干してお茶や粉末にすると、一年中利用することができます。生でも乾燥したものでも薬効に優れ、全草を乾燥させたすぎなは「問荊(もんけい)」と呼ばれ、泌尿器系に効能を発揮する民間薬として有名です。
粉末にすると牛乳やスープ、小麦粉やパン粉に混ぜるなど、様ざまな料理に応用可能となり、日常的に無理なく取り入れることができます。ミネラルやビタミンなどが豊富に含まれているので、たんぱく質や脂質、炭水化物と食べ合わせると、すぎなは栄養バランスに優れたメニューになります。薬草なので一度に大量にとることは避け、適量摂取を心がけて日々の食卓に利用してください。