菊
菊とは
キク科はもっとも進化したグループ
菊はキク科の多年草です。キク科はもっとも進化したグループといわれて、多年草の他に1年草や大木になるものまであり、その種類は13,000種以上もあるといわれています。生息地も寒帯から熱帯、高山から海岸までと広範囲に広がり、タンポポ、ヒマワリ、マーガレットなど多くの仲間がいます。
食用も観賞用も食べることができる
キク科キク属の植物は食用になるものが非常に多く、食用されるものは「食用菊」「料理菊」などと呼ばれています。しかし、植物分類では食用の菊も観賞用の菊も同じであるため、観賞用の菊も食べることができます。しかし、観賞用の菊は苦味が強いため好まれず、市場では苦味が少なくて香りがよくほのかな甘みを持つものが食用菊として栽培され、流通しています。食用菊は東北地方や新潟県などで昔から栽培され、利用法として一年中食べられる保存食としての「菊海苔」、陰暦9月9日の重陽の節句に飲まれる「菊酒」、乾燥させた菊の花びらに熱湯を注いで飲む「菊茶」などがあり、古来より日常生活の中(特にハレの日)で利用されてきた歴史を持っています。菊は桜と並ぶ日本を代表する花ですが、桜が日本原産の花であるのに対して、菊は中国から渡来した外来の花です。
若返りや不老長寿を願う「きせ綿の儀」
奈良・平安時代を通して、花持ちのよい菊は「不老長寿の花」「薬草」として人気があり、陰暦9月9日の重陽の節句には長寿を願って菊酒を飲むと同時に、「きせ綿の儀」という行事が行われていました。きせ綿の儀とは菊の花に綿を被せて露と香りを染み込ませ、その綿で体を拭うという行事です。咲き始めてから約1か月以上も美しさを保つ菊に、古代の人々は不思議な生命力を感じ、菊の持つ薬効を取り入れることで若返りや不老長寿を願いました。また、日持ちのよいことから戦に出陣する時や元服の儀に菊の花が飾られました。
食用菊の王様「もってのほか(もって菊)」
菊はたくさんの花が集まって形成される集合花です。花びらに見える一枚一枚が1つの花で「舌状花(ぜつじょうか)」と呼ばれています。この舌状花の苦味が少なく香りの高いものが食用菊として好まれ、代表格は食用菊の王様と呼ばれる「もってのほか(もって菊)」です。もってのほかは山形県で古くから作られてきた食用菊の品種で、正式名称を「延命楽」といい、独特の風味とうまさ、美しさを持っています。その名の由来には①こんなおいしいものを食べないなんて「もってのほか」 ②こんなに美味しいものを嫁に食べさせるなんて「もってのほか」 ③菊の御紋を食べるなんて「もってのほか」 など諸説あり、今日では食用菊の代表となっています。
明るい黄色の大輪「阿房宮」
もってのほかと並ぶ食用菊に「阿房宮」と呼ばれる青森県南部町特産の明るい黄色をした大輪の食用菊があります。阿房宮は収穫後、蒸す→乾燥させるという工程を経て作られる「干し菊」として流通することも多く、さっと湯がくと鮮やかな黄色の色が戻ってくることから、一年中利用できる保存食品となっています。八重咲の花の見事さを秦の始皇帝が建てた大宮殿「阿房宮」になぞらえてこの名で呼ばれるようになったと言われています。同じ黄色の菊として刺身などのつまとして彩りに添えられている小菊の食用菊がありますが、この小菊は温室栽培もされ、一年中安定して出荷されています。
菊に含まれる主な成分
生薬としての菊の花は「菊花」と呼ばれ、『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』(中国最古の薬物学書)には、菊茶や菊酒を長く飲み続けると「体が軽くなり、長生きする」とその薬効が述べられています。中医学では主に解熱、鎮痛、消炎薬として風邪、めまいなどに利用されています。
菊は花そのもの、乾燥させたものなどがありますが、いずれもビタミンEを豊富に含み、ミネラル(カリウム、リン、カルシウムなど)やビタミンC、様々な薬効成分を含んでいることが解明されています。
ビタミンE
私たちの体内は老化に伴い脂肪の酸化が進み、過酸化脂質(コレステロールや中性脂肪などの脂質が酸化されたもの)が多くなるメカニズムになっていますが、ビタミンEは不飽和脂肪酸の酸化を防ぐ働きと、過酸化脂質が多くなるのを防ぐ働きを持っています。また、ビタミンEが十分にあると、血液中の悪玉コレステロールを減らす働きを持つ不飽和脂肪酸の酸化が防げ、動脈硬化の予防につながります。血行の悪い人には不足がちのビタミンなので、補うと冷え性や低血圧などの予防に効果的です。古くなったり日光や熱によって酸化すると過酸化脂質になるので、ビタミンEを豊富に含む食品は、新しいものを使うと同時に、保存に気をつけることが大切です。
生理機能を整えるミネラル
菊にはカリウム、リン、カルシウムなどのミネラルが含まれています。ミネラルは三大栄養素(たんぱく質、炭水化物、脂質)のように生命維持に不可欠の成分ではありませんが、体の生理機能を整える上で欠かすことのできない成分です。必要量はわずかですが体内では合成することができないため食べ物から取ることが大切です。カリウムは主に小腸で吸収され、腎臓から排泄されるミネラルで欠乏すると脱力感や食欲不振などを起こし、ナトリウム同様に体液浸透圧に関与しているミネラルです。リンはカルシウムと結合して骨格などの硬組織を形成し、骨の強さや硬さに影響を与えるミネラル。カルシウムは体内に最も多く存在するミネラルで大部分は骨や歯に含まれ、不足すると骨や歯の成長に影響を及ぼすミネラルです。これらミネラルの働きが健康維持に働きます。
血管を強くし、抗酸化性を持つビタミンC
ビタミンCは毛細血管、歯や骨、軟骨や結合組織を強くする働きのある抗酸化性を持つ水溶性のビタミンです。免疫活動の主力である白血球の働きを強化する、コラーゲンの生成に欠かせない、発がん物質の生成抑制の効果があるなどの働きを持ち、発熱時や喫煙時には消耗が激しいので、十分に取ることが必要です。
発がんを抑制し、動脈硬化予防に働く
菊の花びらにはヘリアントリオールCとファラジオール、クロロゲン酸とイソクロロゲン酸などの成分が含まれていることが解明されています。ヘリアントリオールCとファラジオールは細胞の酸化を予防して発がんを抑制し、クロロゲン酸とイソクロロゲン酸は悪玉コレステロールを抑え動脈硬化などの生活習慣病の予防に働きます。コレステロール値の研究では1日100gの食用菊を2週間摂取したところ、総コレステロールが下がったとの実験結果も発表されています(山形県衛生研究所)。
グルタチオンが活性酸素を抑制する
菊には生体内のグルタチオンの産出を高める働きのあることが解明されています。グルタチオンとは3つ(グルタミン酸、システィン、グリシン)のアミノ酸が結合したトリペプチドで、解毒作用を持つ成分です。老化に伴い体内で増える活性酸素抑制に働き、健康長寿へとつながると指摘されています。
血圧低下に働く菊の花
日本では古来より菊の花は血圧を下げ、胃腸の働きを助け、目の疲れが取れると利用されてきました。事実、山形県衛生研究所の研究によると、ウサギに菊花のエキスを投与したところ体温や血圧が下がったとの報告がされています。また、大腸菌やチフス菌、緑膿菌などの成長抑制作用も報告されています。
菊花レシピ
菊は古来より優れた薬効が認められている食品です。ビタミンEやビタミンC、ミネラルの他に、活性酸素抑制やコレステロール低下に働く様々な薬効成分を含んでいます。良質なたんぱく質や脂質と一緒に食べ合わせると、体内の生理機能が整い、健康維持に有効です。菊の花はゆでる時に熱湯に酢少々を垂らすと、色よくゆであがります。