ひるがお
ひるがお(昼顔)とは
夏の風物詩
ひるがおはヒルガオ科ヒルガオ属・つる性の多年草で、アジアの東部や南部の温帯地方に広く分布し、日本では本州から四国・九州までの日当たりのよい野原や道端に自生しています。あさがおのような派手さはありませんが、夏の終わりまで薄いピンク色の如雨露型の花を次々と咲かせる夏の風物詩ともいえる野草です。地中の白い根茎から長いつるを出して周りのものにからみつきながら、辺り一面に増えていきます。葉は変異も多いのですが互生し、長い柄があり、ほこ形で基部は耳形となり左右に張り出しています。夏の日中、葉腋に花柄を出し、頂に紅色を帯びた花を咲かせます。
「ひるがお」と「こひるがお」
植物学上、ひるがおは「ひるがお」と「こひるがお」に分類されています。「ひるがお」は葉が長楕円状皮針形で大きいものは長さ10cmもあり、頂に1個の大きい淡紅色の花を咲かせます。一方、「こひるがお」は葉がほこ形で基部は耳形で左右に張り出し、頂に紅色を帯びた小さな花(ひるがおに比べて)を咲かせます。大きい花を咲かせる「ひるがお」は「大ひるがお」と呼ばれることが多く、通常、ひるがおと言うと「こひるがお」を指すことが一般的です。
ひるがおと朝顔の違い
朝顔はひるがお同様、ヒルガオ科のアジア原産つる性の植物です。ひるがおが地下茎で増える多年草であるのに対して、朝顔は種で増える一年草です。花や葉の形態は非常によく似ていますが、開花の時間帯がひるがおが日中に開花するのに対して、朝顔は早朝開花と異なっています。
「かほ」は美人顔が由来の言葉
ひるがおや朝顔などの漏斗型の花は、万葉集では「容花(かほばな)」「貌花(かほばな)」「可保波奈(かほばな)」などの名称で詠われています。漏斗型の花の形は美人の顔に例えられ、この「かほ」がひるがおやあさがおの名の由来と推測されています。同じ「かほ」であったひるがおとあさがおは、開花する時間帯が日中と朝との違いから、それぞれの名前が付けられたと伝えられています。
秋の七草の「朝貌(あさがお)」は「桔梗」が定説
「秋の野に 咲きたる花を
指折り(およびをり)かき数ふれば 七種(ななくさ)の花
萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝貌(あさがお)の花」
これは、万葉集で謳われている山上憶良が選定した「秋の七草」です。
この七草の最後の「朝貌(あさがお)」は、同じ漏斗型の花の「桔梗」であるというのが今や定説となっています。※尾花はススキです。
古来より親しまれ、多くの別名を持つ
ひるがおは古来より謳われ親しまれてきた野草です。万葉集では「かほばな」と詠まれ、平安時代の『本草和名(ほんそうわみょう)』や『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』に登場する「波夜比止久佐(はやひとぐさ)」は、ひるがおであるといわれています。また、江戸時代の『本草綱目啓蒙』では「ハヤヒトグサ ヒルガホ など」としてその名が登場しています。また、「あめふりばな」「あめふりあさがお」「はたけあさがお」「ひるあさがお」など、地域によって様ざまな名で呼ばれています。
生薬名は「旋花(せんか)」
夏に採取した全草を乾燥させたものは生薬名を「旋花(せんか)」と言い、利尿、強壮、疲労回復、糖尿病に効能があるとされています。民間療法では、生葉の汁は虫刺されや切り傷によいと伝えられ、利用されています。
葉・茎・花を食用する
ひるがおは花・葉・茎・地下茎と全部を食すことのできる野草です。茎や葉は先の方を10cmほど摘んだもの、花はつぼみと開花したもの双方を食用として利用します。葉や若い茎は茹でて水にさらしてからお浸し・和え物・汁の実・油炒めなどに、花や地下茎は天ぷらなどとして食用。ベトナムではヒルガオ科のさつまいもの葉は栄養価の高い食品として、食用してきた歴史を持っています。一方、一年草の朝顔は、食べると腹痛を起こすとも言われているので気をつけましょう。
ひるがお(昼顔)に含まれる主な成分
ひるがおの葉茎には、食物繊維や葉緑素、ポリフェノール、β‐カロテンなどが含有されています。
生活習慣病の予防にも働く食物繊維
ひるがおに含まれる食物繊維は体内では消化できない炭水化物で、エネルギー源にはなりませんが「体の掃除係」として働くことから、「第6の栄養素」と呼ばれています。水溶性と不溶性があり、ともに整腸作用が強く、便秘解消やコレステロール値低下、有害物質排出などに働きます。適量ならばダイエットや発がん物質・コレステロールの吸収抑制に働きますが、過剰摂取は腸内で消化を待っているビタミン・ミネラル(特にカルシウムと鉄)の吸収率を下げてしまうので気をつけましょう。
光合成に欠かせないクロロフィル(葉緑素)が健康維持に働く
ひるがおの葉の緑色は、クロロフィル(葉緑素)と呼ばれる緑色をした色素です。クロロフィルの分子構造は血液に類似しているため、「植物の血液」とも呼ばれています。「増血や血液をキレイにする」「肝臓の強化」「損傷を受けた組織の修復」などの働きを持ち、私たちの健康を維持し、植物の光合成に欠かせない成分です。
※光合成:動けない植物が必要な栄養分(炭水化物)を自分の体の中で作る仕組み。太陽光・空気中の二酸化炭素・根から吸い上げた水を使って、葉緑体の中で栄養成分を作り出し、水を分解する過程でできる酸素は外に排出する
抗酸化作用が高まるポリフェノール
ひるがおにはポリフェノールが含まれています。ポリフェノールは植物の樹皮や表皮、種子などに含まれる苦みや渋みなどの成分で、自然界には何千種類も存在すると言われています。動けない植物が外敵や紫外線などから自分自身の身を守るために獲得した生体防御物質で、植物だけが持つ成分です。フラボノール、タンニン、カテキン、アントシアニンなどの物質の総称で、取り入れることで抗酸化作用が高まり、健康維持に働きます。
体内でビタミンAの働きをするカロテン
ひるがおの葉の緑色にはカロテンが含まれています。カロテンは体内でビタミンAの働きをする栄養成分で、上皮、器官、臓器の成長や分化に関係するため、特に妊婦や乳児には必要なビタミンです。不足すると粘膜乾燥により消化吸収の能力の低下や、呼吸器系の抵抗力低下などの障害が発生。また、視神経にも関与するので欠乏すると暗順応の反応性低下を引き起こします。そのまま体内に吸収されるビタミンAと違ってカロテンの吸収率は低いのですが、脂溶性なので油を使った調理法にすると、吸収率がグンと高まります。
ひるがお(昼顔)のゆで方
さつまいもと同じヒルガオ科のひるがおは、アクの程度は「中」。葉や茎は先端から10cmほどを摘み取り、ゆでて水にさらしてから利用します。アクが気になる場合は、水にさらす時間を長くしてください。
ひるがおのゆで方
- ひるがおはよく洗い、水気をきる。
- 鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、塩ひとつまみを加え、水気をきったひるがおを入れ軽くゆでる。
- ゆであがったらすぐに水に放してアクを抜き、水気をきる。
ひるがおレシピ
ひるがおは、さつまいもと同じヒルガオ科の植物で、花・葉・茎・地下茎とすべてを食すことができる嬉しい野草です。自然界の中でポリフェノールを蓄えたひるがおは、食すことで私たちの体内で細胞の酸化予防に働きます。アクは中程度ですが、気になる場合は水に浸ける時間を長くしてください。葉・茎・花は季節がありますが、茎は一年中採取可能なので、上手に利用することで一年中利用することができます。不足気味の栄養素(たんぱく質や脂質など)を補うと、栄養バランスに優れたレシピを作ることができます。