つゆくさ
つゆくさ(露草)とは
瑞々しい青い花は一日草
つゆくさは世界中に広く分布するツユクサ科ツユクサ属の一年草で、日本では北海道から沖縄に至る湿気のある空き地や道端などに生息しています。種類は600種ほどあるといわれ、日本では4属8種類が生息しているといわれています。茎は長く地を這うように茂り、晩夏から初秋にかけて二つ折れになった苞(ほう)の間から青色の花を咲かせます。花は早朝に咲き出し露が残っている間は瑞々しく咲いていますが、陽があたる午後にはしぼんでしまう一日花です。花弁は3枚あり(2枚は青で大きく、1枚は白で小さい)、葉は竹の葉のような形をし、20~30㎝に生長します。
別名を多く持つつゆくさ
夜間に放射冷却で冷やされた葉や花に大気中の水蒸気が集まり露を帯びることから、和名では「露草(つゆくさ)」と呼ばれています。また月の光を浴びて咲くので「月草(つきぐさ)」、蛍の光を連想させる、あるいは蛍のカゴに入れたことから「蛍草(ほたるぐさ)」、花を包んでいる苞の形から「帽子花(ぼうしばな)」、万葉時代には花弁を臼でついて色汁を布にこすり付けて染めたことから「着草(つきくさ)」「青花(あおばな)」、その他「かまつか」「はまぐりぐさ」など様々な名で呼ばれています。
友禅や絞り染めの下絵の絵の具として利用される
つゆくさの青い色素は水に溶けやすく退色しやすい性質を持っています。その性質を利用して万葉の時代には摺染(すりぞめ)に、江戸時代には友禅や絞り染めの下絵を描く時の絵の具として利用されてきました。現在でも利用されている「青花紙(あおばながみ)」はつゆくさの花弁を絞った液を特定の和紙に塗り重ねて乾燥させて作られるもので、つゆくさが市の花に制定されている滋賀県草津市で伝承されています。
※青花紙に使われるつゆくさは「大帽子花(おおぼうしばな)」と呼ばれる花の部分を大きく品種改良したつゆくさで、一般に「青花」と呼ばれています。
蛇や犬にかまれた時にも有効
つゆくさの開花期(開花期のものが一番勢いがよい)に地上部を刈り取って乾燥させたものを生薬名では「鴨路草(おうせきそう)」といい、解熱、利尿、水腫、心臓病、下痢、咽喉痛、扁桃炎、口内炎、はれもの、虫刺され、あせもなど多岐に亘り利用されています。民間療法では虫刺されやはれものなどに有効な野草は数多くありますが、蛇や犬にかまれた時の使用にも有効であると、『大和本草(やまとほんぞう)』(江戸時代前期の代表的本草書。著者:貝原益軒)に著されています。あせもや湿疹には刻んで天日乾燥させた葉と茎を布袋に入れて浴剤にする民間療法が伝わっています。
※生薬:天然に存在する薬効を持つ産物から、有効成分を生成することなく体質改善を目的として利用する薬の総称。
つゆくさに含まれる主な成分
つゆくさは全草に有効成分を含んでいる野草です。青い花の色にはアントシアニンのデルフィニジンが含まれ、葉や茎にはグルコシド、タンニン、フラボノイドのアオバニンなどが含まれています。
グルコシドがエネルギー源として働く
グルコシドは植物一般にみられるグルコースに由来する配糖体です。グルコースは英語の表記で、日本語では「ブドウ糖」。ブドウ糖(糖質)は三大栄養素のひとつで、貴重なエネルギー源であり、このエネルギーになる糖質の中でグルコースが中心となります。グルコシドは植物一般に含まれており、体すべての働きや筋肉や内臓などのエネルギー源として働きます。
「渋」と呼ばれ、血中コレステロール低下に働くタンニン
タンニンはカテキン類の総称で、広く植物の樹皮・実・葉・木部などに存在し、一般的に「渋」と呼ばれる成分です。水溶液が強い収れん作用を持ち、皮をなめす(動物の皮を通水性や通気性に乏しい革にする)性質を持っています。その存在は古くから知られていましたが、タンニンと呼ばれるようになったのは18世紀末で、英語の「tan(タン)=革をなめす」が語源となっています。抗酸化作用、抗がん作用、殺菌作用、抗ウイルス作用などを持ち、血中コレステロールを下げて動脈硬化、高血圧、心疾患や脳血管などを防ぎます。脂肪を分解してエネルギーに変える働きもあり、肥満予防にも有効です。
細胞の酸化予防に働くアオバニン
フラボノイドはポリフェノールの一種で、植物の持つ色素・苦み・辛みなどの成分です。緑茶・ぶどう・たまねぎ・そば・大豆などに多く含まれ、4000以上の種類があるといわれています。代表的なものとしてアントシアニン、カテキン、イソフラボンなどがあり、種類によって異なった特徴や作用を持っていますが、総じて高い抗酸化作用を有しています。アオバニンもポリフェノールのひとつで強力な抗酸化作用を持ち、活性酸素の働きを抑えて細胞の酸化を予防し、血液循環の改善に働きます。動脈硬化や血圧正常などが期待できます。
糖尿病予防に期待
つゆくさを品種改良した大帽子花(おおぼうしばな)に有効成分(デオキシニジリマイシン、ジヒドロキシメチルジヒドロキシピロリジン)が含まれていることが、大阪薬科大学の草野源次郎教授のグループの研究により発表されました。これら有効成分には糖質分解酵素「α-グルコシダーゼ」を阻害して小腸での糖の吸収を穏やかにする働きがあり、糖尿病の予防に効果が期待できると報告されています。
光合成に欠かせないクロロフィル(葉緑素)が健康維持に働く
クロロフィルは葉緑素とも呼ばれる緑色をした色素で、植物の葉が緑色なのはクロロフィルを含有しているからです。クロロフィルの分子構造は血液に類似しているため「植物の血液」とも呼ばれています。「増血や血液をキレイにする」「肝臓の強化」「損傷を受けた組織の修復」などの働きを持ち、私たちの健康維持に働き、光合成に欠かせない成分です。
※光合成:動けない植物が必要な栄養分(炭水化物)を自分の体の中で作る仕組み。太陽光・空気中の二酸化炭素・根から吸い上げた水を使って、葉緑体の中で栄養成分を作り出し、水を分解する過程でできる酸素は外に排出する。
つゆくさレシピ
つゆくさはアクが少なく、淡泊なやさしい味わいの野草です。花の咲かないうちに、やわらかそうなものを茎ごと摘み、料理に使います。やわらかければサラダなどに生のままで(あるいは軽くゆでる)食すこともできますが、開花期を迎える晩夏から初秋にかけてのつゆくさは、新しく伸びた枝先を利用します。
昨今の研究でつゆくさには、糖質の吸収を促す分解酵素の働きを阻害する効能があり、糖尿病の予防が期待できると報告されています。つゆくさに含まれる様ざまな薬効成分は体の生理機能を整えますが、薬効成分は取り過ぎるとマイナスにも働くことがあるので、単独での多量摂取には注意しましょう。たんぱく質・脂質・炭水化物などを含む様ざまな食品と一緒に食べ合わせることで、バランスのよい健康食を作ることができます。