春の山菜
春の山菜の栄養素と効能
冬の終わりから早春にかけて、田んぼや山野には春特有の苦みと香りを持った山菜がたくさん顔を出します。春の使者といわれる「ふきのとう」、山菜の王様と呼ばれる「たらの芽」、春先に一度は食べたい「せり」、ゆっくり育ち強力なパワーを持つ「行者にんにく」。それぞれの効能を、上手に取り入れ、冬の間に体内に蓄積された脂肪や老廃物を排出し、活動的な体に目覚めさせましょう。
春の山菜は、特有の苦みと香りを持っています。苦みはアクとして「アク抜き」され調理されますが、このアクはタンニンなどのポリフェノール類。抗酸化力などの有効な成分が含まれているので、アクを抜きすぎないように気をつけましょう。
ふきのとう
早春に土の中から顔をのぞかせるふきのとうは、春を真っ先に告げてくれる山菜で、「春を告げる山菜」とも呼ばれています。ふきの花蕾で、畑や田んぼの土手に顔を出す日本原産の山菜。独特の苦みや香りを持ち、冬眠から目覚めた熊が、一番初めに口にするといわれています。
独特の苦みには、フキノール酸、ケンフェノール、アルカロイドなどのポリフェノール類が多く含まれ、胃を丈夫にして腸の働きを整える働きに優れています。
フキノール酸は血中のヒスタミンを減らし、花粉症の予防や咳止めに効果があるといわれ、ケンフェノールが発がん物質を除去し、アルカロイドが春のだるさや疲れを解消する働きを持っています。香り成分はフキノリドで、胃腸の働きを高める働きがあります。
ふきよりも、カロテンやビタミンCを多く含んでいます。
■アク抜き
たっぷりの水に2時間くらい漬ける。途中水が黒ずむので変えるとよい。苦みが気になる時は、長く水に漬けるか、熱湯でさっとゆでると苦みが和らぐ。天ぷらにする時は、そのまま揚げる。
たらの芽
日本全土の日当たりのよい場所に群生する、もっとも人気のある山菜です。独特の風味と苦みを持ち、トゲが多く赤みがかった「赤芽」と、トゲが少なく赤みのない「青芽」があります。暖かくなり太陽の光を十分に浴びると、穂先が黒に近い赤紫になり、全体が黒ずんできますが、これはポリフェノールが増えたため。小ぶりなものが好まれますが、自然の中で、手のひらサイズに成長した、太くてずんぐりしたものの方が美味です。
「山のバター」と呼ばれるほど、良質なたんぱく質と脂質を含み、ビタミン類も豊富に含まれています。独特の苦み成分はエラトサイド。抗酸化力があり、細胞の酸化を防いでがんを予防する働きがあります。また、糖の吸収を穏やかにする働きがあるため、糖尿病の予防にも有効です。風味は香り成分のピネンやテルペン。精神をリラックスさせる働きを持っています。
■アク抜き
天ぷら、フライの場合は、洗ってそのまま使う。お浸しや和え物の場合は、熱湯でさっとゆがく。
せり
春の七草として利用され親しまれている早春の山菜で、水田やあぜ道に自生して群生します。特有の香りを持ち、とくに田ぜりは冬場の貴重なビタミン源。カロテンやカルシウム、カリウムが豊富で、冬の間に血液中に溜まった過剰な脂肪分や老廃物を排出し、血液の流れをよくするとして、春先に一度は食べたい山菜といわれています。鉄分や食物センイも豊富で、特有の香り成分には、保温効果や発汗作用があります。水中に育つ水ぜりによく似た有毒の毒ぜりがありますが、毒ぜりは茎が太くて大きく、内部が空洞になっているので、間違えないように気をつけましょう。
■アク抜き
お浸しや和え物の場合は、塩少々を入れた熱湯でさっとゆがき、冷水に放す。薬味や鍋の場合は、洗ってそのまま使う。
行者にんにく
高原や深山に自生するユリ科の多年草で、香りがにんにくに似ており、山奥で修業をしていた行者たちが、厳しい修業に耐えるためのスタミナ食として食べていたことから、この名が付けられたといわれています。葉は光沢があり、すずらんのような形をしており、2枚の葉が出るまでに7~8年、花が咲くまでには10年近くかかるといわれる成長の遅い山菜です。香りはにんにくよりも強烈で、さらににんにくの数倍ものアリシンを含んでいます。アリシンは血液中の脂質を減らし、活性酸素を除去する働きを持っているので、血流の流れをよくし、がん予防にも有効です。また、強い殺菌力も持っています。
■アク抜き
お浸し、ぬたなどの場合は、さっと熱湯に通し冷水に放す。ゆでることでアクが抜ける。炒めたり薬味に使う場合はそのままでよい。
春の山菜「春には苦味を盛れ」
人間を始めとする動物は、冬の間、体温を逃がさないためにできるだけ体を動かさず、体内に栄養を蓄えて冬を乗り切ります。即エネルギーとなるたんぱく質や脂質を含む肉食が多くなり、そのため冬の間は脂肪がつきやすく、体重も増える傾向にあります。しかし、気温が暖かくなる春先になると、新陳代謝が活発になり、肝臓の働きも活性化され、体内に溜め込んだ脂肪や老廃物を排出して春の体へと変化していきます。
冬の体から春の体へと、スムーズに移行させていくのに欠かせない食べ物が山菜です。
昔から「春には苦みを盛れ」といわれています。実はこの苦みにこそ、冬から春の体に変わるメカニズムをスムーズにする働きがあるのです。冬眠から目覚めた熊が一番初めに口にするのは「ふきのとう」といわれているのも、ふきのとうの苦みを体内に取り入れることで、眠っていた体を目覚めさせるためでしょう。
春一番に顔をだすふきのとうやたらの芽など、山野に自生して食べられる植物を山菜と呼んでいます。本来は栽培されないもの、それゆえに特有の苦みや香りが強く、春の体に必要な植物なのです。
春の山菜には抗酸化力の高いポリフェノール群が豊富に含まれています。苦みや香りを含んだ春の山菜を上手に取り入れ、冬の間に体内に溜まった老廃物や脂肪を排出しましょう。上手に体内の熱を取り除くことは、春先の疲れやだるさを取り去り、そしてやがて訪れる暑い夏を、元気に乗り切る体を作ってくれます。
主な山菜
あしたば、あけび、あざみ、いわぶき、うど、うるい、かたくり、クレソン、たらの芽、ふきのとう、ふき、行者にんにく、こごみ、せり、たけのこ、ぜんまい、三つ葉、わらび、つくしなど
山菜のアク
<アクの軽い山菜>
比較的アクの弱い山菜は、さっと湯通しするか、あるいは0.5~1%の塩分の湯でゆで、冷水にさらしてから水気をきってアクを抜きます。天ぷらや薬味に使う時は、アク抜きの必要はありません。
あしたば、アケビの芽、いたどり、うこぎ、行者にんにく、クレソン、クサソテツ、コシアブラ、山椒、シオデ、じゅんさい、せり、たらの芽、のびる、ふきのとう、みず、三つ葉、わさびの葉など
<アクの強い山菜>
木草灰あるいは重曹(0.3%。重曹の量が多いとやわらかくなり過ぎるので注意)を入れた熱湯でゆで、そのまま冷ましてからていねいに水洗いをしてアクを抜きます。ぜんまいやわらびは、木草灰を振りかけてから、熱湯を十分に注いで一晩おき、水をかえてからゆで、冷水にとってアクを抜きます。
アク抜きで気をつけたいことは、「ゆですぎないこと」と「水にさらしすぎないこと」。山菜も持っているビタミンCなどの水溶性の栄養成分や、苦味や香り成分を失わないようにしましょう。
山菜の保存
- 冷蔵
- アクが強くなく、そのまま使えるものは一度水に浸けて水揚げしてシャキッとさせ、水気をふき、小分けして保存袋へ入れて冷蔵する。
- 冷凍
- 数ヶ月保存する場合は、固めにゆでて流水にさらし、よく水気をふき、小分けして保存袋へ入れ、冷凍庫で冷凍する。
- 塩漬け
- 樽やかめなどの容器に山菜を並べ、塩をたっぷりと振る。この作業を繰り返し、塩と塩の間に山菜をはさみ込む。上から重石をのせて冷暗所で保存する。食べる時は、水に浸けて塩抜きするか、たっぷりの水に入れて火にかけ、沸騰直前に火を止めそのまま冷まして塩出しする。
- 乾燥法
- ぜんまいなどを保存する時に用いられる保存法。灰を入れた湯でよく煮て、ゆであがったらムシロの上などに広げ干す。食べる時は、たっぷりの水に一晩つけ、水洗いしてから15~20分ゆでる。
- 水煮瓶詰め
- ゆでて、アク抜きしたものをビン詰めにして、ゆるくフタをして湯煎や圧力鍋などで加熱殺菌後、すぐにフタを閉める。そのまま冷ますと減圧状態で長期保存が可能。
- 味噌漬け
- まず山菜を一晩または数日間塩漬けにしてから漬け込む。味噌床へ山菜を並べ、上からも味噌をかぶせて重石をする。山菜を布巾かガーゼに包んで漬けると、取り出すときに便利。ウド、ワラビなどに向く。
春の山菜の「おばあちゃんの知恵袋」
ふきのとうで花粉症や咳を止める
ふきのとうに含まれる特有の苦み成分であるフキノール酸は、血中のヒスタミンを減らす働きがあり、そのため花粉症や咳止め予防に有効に働きます。
<作り方>
ふきのとうの蕾を摘み、日陰に干す。鍋に干したふきのとう15~20gと水2カップを入れ、弱火で半量になるまで煎じる。3回に分けて飲む。
たらの芽のトゲで、高血圧を予防する
昔から、たらの芽のトゲを煎じて飲むと、高血圧の予防やがん予防に効果があるといわれていました。たらの芽の効能を持ちながら取り除き捨ててしまうトゲを、無駄なく活用する生活の知恵です。
<作り方>
鍋にたらの芽のトゲと水を入れ、弱火で煎じる。
せりの絞り汁で、子どもの熱を下げる
せりにはカロテンが豊富に含まれています。カロテンは粘膜を強化するので風邪の予防に効果があり、加熱しないのでビタミンCが損なわれずに取ることができ、風邪を予防し熱を下げます。
<作り方>
せりをよく洗い、細かく刻んでガーゼに包み、絞る。1回に絞り汁3CCくらいを飲ます。
せり湯で冷え性を緩和する
せりには体内の塩分を排出し、血流をよくする働きがあります。特有の香り成分にも保温効果や発汗作用があるので、せりを浮かべた湯に入ると体が温まり血行がよくなり、冷え性が緩和されます。
<作り方>
せりを粗く刻み、布袋に入れて湯に浮かべる。特有の香りも出て、リラックスできる。