よもぎ
よもぎとは
古来より薬草として利用されてきたよもぎ
よもぎは日本全国いたる所の山野に自生しているキク科の多年草です。特有の香気を持ち、春の若葉は米粉に入れて草餅にすることから、別名モチグサとも呼ばれています。旺盛な繁殖力で山野一面に萌えいずることから「善萌草」、よく燃えることから「善燃草」、四方に根茎を伸ばして繁茂することから「四方草」などの字が当てられ、その生命力には邪気を払う力があると信じられ、古来よりひな祭りや端午の節句などのハレの日にはよもぎを使った料理が数多く作られてきました。また薬草として咳止め・虫下し・血止めなどに利用され、日常的に取り入れることで体質改善・病気予防・健康増進などの民間療法として、現在でも伝承されています。
よもぎは葉のみならず、茎・根・花(花穂)のすべてを食すことが可能な野草で、中国では「艾葉(がいよう)」と呼ばれ生薬として利用されています。
冷え性予防やアトピー性皮膚炎のかゆみにも有効
よもぎは体を温める作用を持っているため、冷え性予防におススメの野草です。そのまま食べたり乾燥させてよもぎ茶にしたり、またよもぎの葉を浴槽に入れたよもぎ風呂にするなどしてよもぎを取り入れると、体の内部から温まり、血液促進作用により肩こり解消などに効果を発揮します。よもぎ風呂にする場合は、袋に入れたよもぎを水の段階から入れて風呂を焚き、ややぬるめの湯に長めに入ると効果的です。水の段階から入れることで薬効成分が湯に溶け出し、肌荒れやアトピー性皮膚炎のかゆみにも有効と言われています。さらによもぎに含まれる精油が湯冷め予防に働きます。
春のよもぎはやわらかい。夏から秋のよもぎは薬効が高い
よもぎは春を過ぎると生長して背丈が伸び、葉はかたくなりアクも強くなります。そのため、生食や草餅などに利用する時はやわらかく香りのよい3~5月のよもぎが最適です。一方、夏や秋のよもぎはかたくアクも強くなりますが、薬効はこの生長したよもぎの方が高くなります。アクを取り除けば美味しく食べることもでき、お茶にしたり、調味料に漬け込んで薬効を抽出するのには最適のよもぎとなります。季節にとらわれず、芽生えたよもぎは一年中利用できます。
●よもぎを摘み取るタイミング
3~5月 :新芽や若葉(一芯五葉(いっしんごよう)=新芽の先端から5枚目の葉くらいまで)
夏以降 :新芽の部分(一芯三葉(いっしんさんよう)=新芽の先端から3枚目の葉)
花穂にも、茎や根にも薬効が含まれている
よもぎはお盆前後の頃になるとトウが立ち「花穂」と呼ばれる花が咲きます。この花穂部分にも薬効が豊富に含まれています。よもぎは花穂のみならず、茎や根にも薬効効果があり、健康増進に有効な野草です。ただ、茎や根は花穂に比べてアクが強くかたいので、下準備をしっかりすることが必要です。茎や根は一度蒸してから茹でると食べやすくなります。
お灸の艾(もぐさ)には、白い綿毛が多い梅雨明けのよもぎが使われる
お灸で使われる艾の原料はよもぎの葉で、白い綿毛が一番多い梅雨明けの頃のよもぎが使われています。梅雨明けに収穫したよもぎの葉を乾燥させ、空気の乾燥した冬場に粉砕して裏の綿毛だけを艾として利用します。よもぎが艾として利用されていた歴史は古く、百人一首に藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)が詠んだ「伊吹の さしも草」の和歌が収録されており、このことからも、百人一首が作られた1235年以前にすでに艾が利用されていたことがうかがえます。
よもぎを野菜として食べる沖縄県
南北に長い日本列島の中で、よもぎを野菜として食べる風習のあるのが沖縄県です。よもぎは「フーチバー」と呼ばれ、市場で売られたり家庭菜園で栽培されたりと、沖縄の食生活に溶け込んでいる野草です。春の若葉を使った雑炊は「フーチバージューシー」と呼ばれ、沖縄県の郷土料理として有名です。また沖縄では山羊料理の臭み消しとしても利用されています。
よもぎに含まれる主な成分
よもぎは各種栄養成分を豊富に含んでいる緑黄色野菜です。カルシウムや鉄分などのミネラル、ビタミン類、食物繊維、ビタミン様物質のコリン、クロロフィルなどが豊富に含まれ、特有の香りや苦み成分(アク)にも様々な薬効が含まれています。よもぎの効能は科学的にも解明され、体質改善や生活習慣病の予防などが期待されています。
カルシウム含有量はほうれん草やにんじんよりも豊富
よもぎに豊富に含まれるカルシウムは骨や歯を丈夫にして体の働きを順調にするミネラルです。不足すると骨や歯がもろくなったり、筋肉のけいれん、イライラ、血液の凝固作用が働かず出血が止まらないなど、さまざまな症状が引き起こされます。体の働きをスムーズにするのに欠かせないミネラルなので、不足しないように心がけることが大切です。よもぎのカルシウム含有量はほうれん草やにんじんよりも多く、身近なカルシウム補給源として積極的に取り入れたい野草です。
貧血予防、食欲不振や消化不良の解消に働く鉄分
かぼちゃやほうれん草よりも多く含まれている鉄分は、女性に多い貧血、食欲不振や消化不良などの解消に有効なミネラルです。鉄分の多くは血液中のヘモグロビン(血色素)に含まれており、不足すると血液に酸素を運ぶ機能が低下して息切れや疲労などを引き起こし、皮膚や内臓の栄養状態が悪化するため食欲不振や消化不良へとつながります。よもぎの鉄分はクロロフィルとの相乗効果で造血作用促進に働きます。ビタミンCは鉄分の吸収率アップに働くので、ビタミンCを一緒に取る食べ合わせを心がけると鉄分を有効に取り入れることができます。
リラックスを促す特有の香り
よもぎ特有の香りは、古来より邪気を払うと考えられ珍重されてきました。春に芽生えるよもぎの香りは特に瑞々しく、さまざまな成分を含んでいます。香りの主成分のシネオール、アルファーツヨシ、セスキテルペンなどの精油成分にはリラックスを促す効能があり、特にシネオールは交感神経を抑えて副交感神経を強める働きがあるため、睡眠を促す作用に優れています。アルファーツヨシやセスキテルペンは眼の充血を改善する成分とも言われています。
身体を目覚めさせる苦み成分
よもぎ特有の苦み成分は身体を目覚めさせる効能を持っています。苦み成分のタンニンは虚弱な臓器の働きを活発化し、アデニン(DNAやRNAなどの構成成分)は老化防止・心臓の機能を正常にする作用・血液循環をよくする・保湿作用などを持っています。よもぎに含まれる苦み成分は春先のものよりも大きく育った夏や秋のものの方に豊富に含まれています。
コリンが老化防止などに働き、認知症改善にも有効
よもぎには老化防止、心臓機能の正常化、動悸や息切れ予防、肝臓障害予防などに働くコリンが多く含まれています。コリンは体内でアミノ酸から作られる成分で、動脈硬化や肝硬変の予防に働き、神経細胞の成分でもあるためアルツハイマー症や認知症の改善にも有効と言われている成分です。「アルツハイマー症の患者の多くはコリンが不足している、コリンの十分な摂取で症状が改善された」等の報告もありますが、コリンとアルツハイマー症の相関関係はまだ研究段階と捉えたほうがよいでしょう。
良質で効力が高いクロロフィル
濃い緑色のよもぎの葉にはクロロフィルが豊富に含まれ、よもぎのクロロフィルは他の野草や薬草に比べて良質で効力が強いのが特徴です。クロロフィルは葉緑素とも呼ばれる緑色をした色素で、太陽の光を受けて光合成を行う時に中心的な役割を果たす成分です。クロロフィルは血液をキレイにする働きに優れ、増血・殺菌・末梢神経の拡張作用などに働きます。
よもぎレシピ
ビタミンやミネラルを豊富に含み、香りやアクにも優れた効能を持つよもぎはヘルシーな健康野菜です。葉から茎・根・花穂のすべてを食することができるよもぎは、肉・魚・豆類などと一緒に取ると、体の生理機能が高まり生活習慣病予防に優れた食べ合わせになります。よもぎは3~5月のものがやわらかく料理に適していますが、それ以降の時期のものでも、やわらかい先端の葉を料理に利用することができます。一年中を通してよもぎを毎日の食生活に上手に取り入れ、体質改善や病気予防につなげましょう。ここでは摘んだよもぎをそのまま使っていますが、料理によっては水洗いをして水気をきったよもぎを、数時間天日で干して乾燥させ、手で砕いて粉状にすると使いやすくなります。