花にら
にら(花にら、葉にら)とは
山野に自生し、栽培は近年になってから
にらはユリ科多年草で、原産は東アジア。山野に自生する野草で戦前は自家用の栽培が主でしたが、特有の臭気が受けいられるようになった昨今では、消費量が伸び全国的に栽培されています。にらは食用される部分や色によって「花にら」「葉にら」「黄にら」に分類されています。「花にら」は花茎が伸びて蕾をつけたもの、葉にらは葉の小さな「小葉」と葉の大きな「大葉」などのグループがあり、「黄にら」は萌芽する前に根株にワラやもみ殻を被せて軟化させたものです。通年市場に出回っている大半は葉にらの大葉種「グリーンベルト」と呼ばれるにらですが、旬は11~4月。夏場には暑さに強い小葉種、秋口には蕾と茎を食す花にらが市場に出回ります。
古名の「茎韮(くくみら)」は成熟したにらを指す
古来「茎韮(くくみら)」と呼ばれていたにらは、9世紀ごろに中国から日本に伝わったと推測されています。「くく」は茎、「みら」はにらの古名で、茎の生え立った韮の意で、成熟したにらを指しています。臭気の強いにら、にんにく、のびる、あさつき、ねぎなどは「蒜(ひる)」と総称され、語源は噛むと口をひりひりと刺激するからといわれています。また、「ひる」には悪霊を追い払う力があるとされ、平安時代の故実書(こじつしょ)に成年式などに「ひる」を噛み砕いて息を四方に吹きかけ悪霊を追い払うという儀式が記述されています。また、万葉集には「久々美良(くくみら)」の表記があり、このくくみらが「にら」と呼ばれるようになったとの説もあります。
別名「なまけ草」とも呼ばれるにら
江戸時代の農書『農業全書』(著:宮崎安貞 1697年刊)に「一度植えておけば、幾年も置き付けにして栄ゆる故、怠り無性なる者」と、にらについての記載があります。にらは刈り取った後の株から再び新芽が伸びるほどに生命力が強く、毎年自然に芽生えるほど手間がかからないことから、別名「なまけ草」とも呼ばれています。「二文字(ふたもじ)」との別名も持ち、初夏のころに中心から伸びた茎の先に、可憐な白い花を無数に咲かせます。俳句の世界ではにらは春の季語ですが、にらの花は夏の季語となっています。
「花にら」はとう立ちしやすく、とうの数が多いにら
花にらはにらの中でとう立ちしやすく、とうの数が多い品種を利用したものです。旬は晩春と秋口で、5月から10月にかけて次々と茎を伸ばし、とうが伸び切り蕾が開かないうちに収穫し食します。蕾は甘みと香気を持ちシャリッとした歯ごたえがあり、日本でも最近積極的に栽培されるようになりましたが、栽培の中心は中国南部や台湾です。中国では「韮菜苔(ジュウツアイタイ)」と呼ばれ、肉類と一緒に炒め物に利用されることが多い野菜です。日本では「にら花」「テンダーボール」「グリーンボール」などの呼び名でも呼ばれています。
ほのかに甘く、上品な香りを持つ「黄にら」
黄にらは大葉種のにらと同じ品種を軟化栽培したにらです。日光が当たらないようにして育てた黄にらは、別名「にらもやし」とも呼ばれるようにやわらかく、ほのかに甘くて上品な香りを持っています。中国では「韮黄(ジュウホワン)」と呼ばれ、炒め物、スープ、おひたし等に利用されています。
種子を乾燥させた「韮子(きゅうし)」は頻尿や下痢に効く
にらは生薬名を「韮白(きゅうはく)」「韮子(きゅうし)」「起陽草」といい、「韮白(きゅうはく)」は葉を乾燥させたもので滋養強壮として、「韮子(きゅうし)」は種子を乾燥させたもので、頻尿・下半身の冷え・下痢などに用いられています。古来よりにらは吐き気・食欲不振、小児ぜんそく・腰痛・切り傷や擦り傷などに利用され、常食すると風邪を引きにくくなる、冷え性に効くと伝えられています。
※生薬:天然に存在する薬効を持つ産物から、有効成分を生成することなく体質改善を目的として利用する薬の総称。
水仙と間違えて誤食すると中毒症状が引き起こされる
近年、にらと水仙を間違えて食べたことによる食中毒が報告されています。水仙はヒガンバナ科の多年草で、一般にヒガンバナ科の植物には有毒成分であるヒガンバナアルカロイドが含まれています。アルカロイドは分子内に窒素を含むアルカリ性を示す有機物の総称で、ニコチン・カフェイン・ソラニン・モルヒネなどがあり、誤食すると短い潜伏期間の後、下痢や嘔吐、頭痛や昏睡などの中毒症状を引き起こします。にらと水仙の葉や鱗茎はよく似ていますが、にらには特有の臭気があるので、まずは臭いを目安にし、誤食しないように気をつけましょう。
花にらに含まれる主な成分
花にらや葉にらなどのにら類は代表的な緑黄色野菜です。体内でビタミンA効力に働くβ‐カロテン含有が高く、その他ビタミンCやE、カルシウムなどのミネラル類を含んでいます。にんにくの硫化アリル(アリシン)に似た成分を含み、辛みはカプサイシンの一種です。
皮膚や粘膜を強化し眼に栄養を与えるβ‐カロテン
β‐カロテンは体内で必要量のみビタミンA効力に働く成分です。ビタミンAは粘膜や皮膚の強化に働き、眼に栄養を与える成分です。不足すると粘膜が乾燥して固くなることから、消化吸収力や抵抗力が低下し、風邪が引きやすくなる、暗い所での視力の低下などを引き起こします。また、乾燥肌の原因にもなるため美肌作りには欠かせない栄養素であり、高い抗酸化力が老化防止や抗がん作用に働きます。にらの濃い色素に含まれるβ‐カロテンは吸収率が低いのですが、脂溶性のため油を使った料理法にすると吸収率が高まります。β‐カロテン含有量は青にら、花にら、黄にらの順になります。
新陳代謝を活性化するアリシン
硫化アリルはにらの他ににんにくやねぎ、たまねぎ、らっきょうなどに含まれる特有の刺激臭や辛みを持つ香気成分です。消化液の分泌をよくして食欲を増進させ、血液凝固を遅らせる働きがあるため血液をサラサラにして血液中の脂質の減少に働き、糖尿病や高血圧、動脈硬化などの予防に有効です。また、殺菌力や肉や魚の生臭さを和らげる働きもあります。にらには硫化アリルの一種であるアリシンが含まれ、ビタミンB1の吸収率を高めます。アリシンとビタミンB1が豊富に含まれるにらは、ビタミンB1が体内に長く留まることから新陳代謝が活性化され疲労回復に高い効果を発揮します。アリシンは揮発性で水溶性のため、切ったり水にさらすなどの下ごしらえを手早くすると、栄養成分を無駄なく取り入れることができます。
高い抗酸化力を持つビタミンC
ビタミンCは毛細血管や歯や骨、軟骨や結合組織を丈夫にする働きを持っている水溶性のビタミンです。高い抗酸化力を持ち、抗がん作用・抗ウイルス作用・解毒作用など多岐に亘る生理作用を持ち、発がん性物質ニトロソアミンの生成抑制、コラーゲン生成、白血球の働き強化、インターフェロン生成促進などに働き、不足すると壊血病を引き起こしたり、歯や骨がもろくなったりします。発熱時や喫煙時には消耗が激しく、貧血の時にも鉄分と同時に赤血球の再生に働きます。水溶性で加熱に弱いため、火を通す場合は手早くすると損失を防ぐことができます。
脂肪燃焼や血行を良くするカプサイシン
カプサイシンは唐辛子の辛みの主成分です。カプサイシンは胃や小腸で吸収されると血液に乗って脳に運ばれ、副腎皮質ホルモン(アドレナリン)の分泌促進に働きます。アドレナリンが出ることでエネルギー代謝が高まり、脂肪燃焼や血行が良くなります。カプサイシンの脂肪燃焼効果は即効性があるため、運動と一緒に組み合わせるとダイエット効果が高まり、血行が良くなることで体が温まります。
光合成に欠かせないクロロフィル(葉緑素)が健康維持に働く
クロロフィルは葉緑素とも呼ばれる緑色をした色素で、植物の葉が緑色なのはクロロフィルを含有しているからです。クロロフィルの分子構造は血液に類似しているため「植物の血液」とも呼ばれています。「増血や血液をキレイにする」「肝臓の強化」「損傷を受けた組織の修復」などの働きを持ち、私たちの健康維持に働き、光合成に欠かせない成分です。
※光合成:動けない植物が必要な栄養分(炭水化物)を自分の体の中で作る仕組み。太陽光・空気中の二酸化炭素・根から吸い上げた水を使って、葉緑体の中で栄養成分を作り出し、水を分解する過程でできる酸素は外に排出する。
花にらレシピ
とう立ちしにらの茎と蕾を食す花にらは、にら同様の栄養成分を含んでいます。青にらに比べて甘みや香気があり、塩とごま油少々を垂らした湯でさっと茹でた花にらはシャリッとした歯ごたえを持ち、そのままのみならず様ざまな料理に利用できます。ビタミンやミネラルを豊富に含み、天ぷらや油炒めにする時はそのまま利用します。スタミナ満点の野草ですが、葉皮にはアルカロイドが含まれており、一度に多食するのは避けましょう。たんぱく質・脂質・炭水化物と食べ合わせると、滋養強壮に優れた健康食を作ることができます。