母子草

母子草(ははこぐさ)とは

母子草

広範囲に生息する帰化植物

母子草はキク科ハハコグサ科の二年草で、古代に農耕とともに渡来した帰化植物と考えられています。東アジアに広く分布し、日本全国の水田のほとりや道端、空き地などの広い範囲に自生する越年草です。独特の芳香があり、全体に白い毛が密生しているため緑白色に見え、冬から早春に地面に張り付くように姿を現します。根元の方で分かれた数本の茎が伸び、草丈20~30cmほどに生長します。葉はやわらかい倒披針形で、葉質は厚みがあり、まっすぐ立った花茎の茎頂に黄色い頭花をつけます。頭状花は花弁がなく多くの筒状花からなり、春から初秋までの長い期間咲き続けます。

母子草の名の由来

母子草の名の由来には様々な諸説があります。①葉を利用することから「葉っこ草」と呼ばれ、それが転じた ②全体を覆う白い綿毛の状態を古語では「ほおける」といい、「ほおけ立つ」→「ほおうこぐさ」が転じた ③母と子の因縁話にまつわる草であるため ④おぎょう(御形=人形)には母と子の像が多いからなど、様ざまな由来が伝わっています。その他、「こうじばな」「ほうこうよもぎ」「ようじばな」など、地域によって様ざまな名で呼ばれています。

かつては草もちに利用されていた

春の七草は「せり、なずな、おぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな すずしろ」の7種で、この「おぎょう」が母子草です。早春に出たばかりの若芽を、根元から刃物で切り取り料理に利用します。母子草は独特の風味に優れているため、七草粥の他に、和え物や浸し物などとして食されてきた歴史を持っています。また、草餅といえばよもぎで作られるのが一般的ですが、昔は、母子草の葉で作られていたことが『本草網目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)』(江戸後期の本草学研究書。1803年刊)に記されています。そのため、母子草を「もちぐさ」「ねばりもち」「もちばな」「もちよもぎ」などと呼ぶ地域が多々存在しています。

生薬は、咳止めや去痰に働く

母子草を開花期に全草を採取して乾燥させたものを、生薬では「鼠麹草(そきくそう)」と呼び、咳止めや去痰に処方されています。「鼠麹草」の名は『大和本草(やまとほんぞう)』(江戸中期の本草書。1709年刊。貝原益軒編纂)に登場しており、『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』(江戸中期の図説百科事典。寺島良安編纂)に痰咳に用いる方法が記されており、当時から、咳や痰の症状緩和に母子草を用いた民間療法が伝承されていたことが伺えます。肺を温める薬草と言われ、寒い時に出る咳に有効。利尿やむくみの緩和、筋肉や骨の痛みを和らげる作用、はたけなどの皮膚病にも有効と言われています。
※「鼠麹草」の名の由来は、葉にやわらかい毛があり、形がネズミの耳に似ているからと言われています。

母子草(ははこぐさ)に含まれる主な成分

春の七草では「ごぎょう」の名で登場する母子草は、全草にフラボノイドを含み、ルテオリン、ステロール、葉緑素、ビタミンB、カロテンなどの成分が含有されています。

高い抗酸化力を持つフラボノイド

母子草に含まれるフラボノイドは、植物の緑葉や柑橘類の皮に多く含まれる植物の色素で、ポリフェノールと呼ばれ、約6000種以上あると言われています。ポリフェノールはフラボノイド系とフェノール系に分類され、約90%をフラボノイド系が占めています(代表的なフラボノイド:大豆のイソフラボン、お茶のカテキン、ブルーベリーのアントシアニンなど)。フラボノイドは色素成分、あるいは同じ色素でも含有される食品により、効能に違いがありますが、総じて高い抗酸化力を持ち、毛細血管強化や抗がん作用、抗ウイルス作用、抗アレルギー作用などの生理作用に優れています。

抗アレルギーや抗炎症作用を持つフラボノイド系のルテオリン

母子草にはポリフェノールのフラのボイド系に分類されるルテオリンという黄色の物質が含まれています。ルテオリンはロイコトリエンという炎症を引き起こす物質を作り出す際に必要な酵素を阻害する働きがあるため、抗アレルギーや抗炎症作用を持っています。抗酸化作用にも優れており、免疫機能の正常化、生活習慣病や動脈硬化予防、発がんや抗がん作用があると報告されています。

血中コレステロール値低下に働くフィトステロール

母子草に含まれるフィトステロールは「植物ステロール」とも呼ばれるファイトケミカル(※)の一種です。植物由来の化合物で、白色個体で特有の臭気を持ち、水には溶けませんがアルコールには溶ける性質を持っています。フィトステロールは食べ物が腸で消化吸収される時に、食品中のコレステロールと競合し、血中コレステロール値低下に働きます。臨床研究による総合効果では、「悪玉コレステロールを低下させ、反作用や副作用は確認されていない」「コレステロール値が高い人ほど効果がある」と言われています(推奨:アメリカ国立衛生研究所付属の国立心肺血液研究所)。
※ファイトケミカル:ファイトとはギリシャ語の「植物(ファイト=Phyto)」、ケミカル=化学で、「植物の持つ化学的な物質」の意味に訳される。果物や野菜に含まれる、栄養素以外の成分(非栄養素=機能性成分)で、動けない植物が、太陽の有害物質や外敵から自分の身を守るために自ら産出する物質で、私たちの体に入ると抗酸化力を発揮する。その抗酸化力は、体を酸化させる活性酸素(フリーラジカル)を無毒化して細胞を守り、酸化によって引き起こされるがんや老化を防ぐ効力を持っている。

光合成に欠かせないクロロフィル(葉緑素)が健康維持に働く

クロロフィルは葉緑素とも呼ばれる緑色をした色素で、植物の葉が緑色なのはクロロフィルを含有しているからです。クロロフィルの分子構造は血液に類似しているため「植物の血液」とも呼ばれています。「増血や血液をキレイにする」「肝臓の強化」「損傷を受けた組織の修復」などの働きを持ち、私たちの健康維持に働き、光合成に欠かせない成分です。
※光合成:動けない植物が必要な栄養分(炭水化物)を自分の体の中で作る仕組み。太陽光・空気中の二酸化炭素・根から吸い上げた水を使って、葉緑体の中で栄養成分を作り出し、水を分解する過程でできる酸素は外に排出する。

三大栄養素の代謝に働くビタミンB群

たんぱく質、炭水化物、脂肪の代謝に働くビタミンB群はお互いに助け合いながら機能するため、一緒に取ることが望ましく、特定のビタミンBのみの大量摂取は、他のビタミンB群の欠乏を引き起こすことが指摘されています。ビタミンB群には「B1」「B2」「ナイアシン」「パントテン酸」「B6」「B12」、ビタミン様に働く「ビオチン」「コリン」などがあり、広く動植物性食品に含まれています。疲労回復、生長促進、皮膚の健康、血糖値低下などに働き、エネルギーを作るのに欠かせない成分です。

母子草(ははこぐさ)のゆで方

母子草のアクは中程度です。天ぷら以外に利用する時は、熱湯で2分ほどゆでてから水に放し、水気を絞ってから使います。

母子草のゆで方

  1. 母子草は若菜を根元から切り取り、よく洗い、水気をきる。
    母子草のゆで方
  2. 鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、塩少々を加え、水気をきった母子草を約2分ゆでる。
    母子草のゆで方
  3. ゆであがったらすぐに水に放し、水気をきる。
    母子草のゆで方

母子草レシピ

「春の七草」のひとつに数えられる母子草は、緑少ない春先の貴重な栄養源として食されてきた野草です。抗酸化力の高いフラボノイドや血中コレステロール値低下に働くフィトステロール、健康維持に働く葉緑素やビタミンBを含んでおり、日常的に食べることで体内の酸化予防に効力を発揮します。単品で食べるよりも、良質なたんぱく質や脂質、糖質と一緒に食べ合わせると、体の生理機能が整えられ、細胞の酸化が予防される滋養食になります。現在では、草団子といえばよもぎで作られるのが一般的ですが、かつては母子草が使われていました。母子草で作る草団子はよもぎのような香りはありませんが、キレイな色合いに出来上がります。

母子草の草団子

母子草の草団子
上新粉は精米したうるち米を浸水後に粉砕し乾燥させた粉で、歯ごたえが感じられる食品です。新粉(しんこ)とも呼ばれ、キメの粗い順に並新粉、上新粉、上用粉と区分されています。上新粉の主成分はでんぷんで、たんぱく質・ビタミン・ミネラルなどが含まれており、抗酸化力の高い母子草と一緒に取ると、免疫力が強化される食べ合わせになります。小豆のビタミンB1が疲れを取り、食物繊維が便秘解消に働き、カリウムやサポニンが水分代謝を高めてむくみ予防に働きます。抗酸化力が高いエネルギーに溢れた草団子です。

母子草と油揚げのくるみ和え

母子草と油揚げのくるみ和え
くるみは良質なたんぱく質や脂質、ビタミン類を豊富に含んでいる種実です。脂質は不飽和脂肪酸のリノール酸を豊富に含み、ビタミンEと一緒に動脈硬化や脳・体の老化防止に働きます。油揚げも良質なたんぱく質やリノール酸を豊富に含んでおり、抗酸化力の高い母子草と干し柿を一緒に取ると、血中コレステロール値が低下し、動脈硬化や脂質異常などの生活習慣病の予防に有効な食べ合わせになります。

母子草のスコーン

母子草のスコーン
イギリスのアフタヌーンティーに欠かせないスコーンは、スコットランドが発祥といわれる小さなパンです。主原料の小麦粉はカルシウムやビタミンB、リノール酸などを豊富に含み、常食すると胃腸が強化され、気力を増す作用に優れています。ブドウを乾燥させたレーズンには即エネルギー源となる果糖やブドウ糖、カリウムやカルシウムなどのミネラルが豊富に含まれ、コレステロールはゼロ。小麦粉、レーズン、母子草を一緒に取ると、母子草に含まれるフラボノイドの効能が細胞の酸化予防をさらに高め、免疫力が高まる食べ合わせになります。小麦とレーズンの食物繊維が腸内を整え、便秘予防に働きます。

母子草のそぼろ弁当

母子草のそぼろ弁当
豚肉はビタミンB1、アミノ酸バランスに優れたたんぱく質、ビタミンAやEも豊富に含む食品です。卵は完全食品といわれる栄養価を持つ食品で、ビタミンBを含む母子草、糖質が主成分の米と一緒に取ると、栄養バランスに優れたエネルギー溢れる滋養豊かな食べ合わせになります。母子草とにんにくの抗酸化力が細胞の酸化を予防し、生活習慣病や抗がん作用に働きます。豚肉と卵を一緒に取ると、記憶力向上の食べ合わせになります。

母子草と栗の炊き込みごはん

母子草と栗の炊き込みごはん
勝ち栗は栗を乾燥させた保存食品です。栗の主成分はでんぷんで、ビタミンB1や脂質、食物繊維などを豊富に含み、筋肉の運動維持や足腰の強化に働きます。母子草に含まれるフィトステロールは食べ物が腸で消化吸収される時に、食品中のコレステロールと競合し、血中コレステロール値を下げる作用を持っており、カリウムや食物繊維を豊富に含む栗と一緒に取ると、高血圧や動脈硬化の予防に効果を発揮します。栗の渋皮には高い抗酸化作用があるので、ゆでて保存する時は渋皮つきがおススメです。