キムチ
キムチとは
朝鮮半島を代表する漬物
キムチは寒い冬に野菜を貯蔵しておく目的で作られた朝鮮半島の漬物です。かつてはどこの国や地域でも、冬の間に野菜を塩漬けにして保存を高める方法が取られていました。キムチも同様で、初めのころは大きなかめに野菜・塩・水を入れて作られる漬物で、やがてにんにくやしょうがなどの香辛料が加えられるようになりました。冬に「かめに入れる=沈める」この漬物は「沈菜(チムチェ)」と呼ばれ、これがやがて「キムチ」と呼ばれるようになったと伝えられています。
キムチは朝鮮半島の食生活に欠かせない食べ物で、日本の味噌や漬物のように各家庭で作られる「お袋の味」です。そのため、地域や家庭によって特徴のある味付けがあり、漬け込む野菜も多種多様のため、キムチの種類は100種類以上あると言われています。
キムチは、今や漬物消費量のトップ
キムチは今日の日本で、漬物消費量のトップの座を占めている漬物です。日本の伝統漬物の沢庵を遥かに上回り、その消費量はここ20年間で約10倍増という驚きの消費量となっています。
キムチが日本で食されるようになったのは戦後。日本に在住していた朝鮮半島の人々が経営する焼き肉店から、キムチは庶民の食生活に浸透していきました。しかし、当初はキムチに使われるにんにくや唐辛子のにおいや辛みが日本の食生活と馴染まず、また両国間の歴史関係などもあり、キムチはなかなか日本の食生活に受け入れられませんでした。
肉の多食に伴いキムチ人気も急上昇
キムチは焼肉に欠かせない漬物です。唐辛子やにんにくなどが生み出す辛みとにおいが肉のくさみを消す働きもあり、焼き肉にキムチは欠かせないベストパートナー。それゆえ朝鮮半島では香辛料を使った漬物が好まれてきました。一方、奈良時代から肉食が禁じられていた日本では、肉特有のにおいを消す香辛料は食生活に必要がありませんでした。しかし、肉を多食する食生活に変わるにつれ、唐辛子やにんにくなどの香辛料は食生活に溶け込んでいきます。さらにキムチの持つ栄養価が広く知られることになり、キムチの人気は昭和30年代から急上昇。今日、特に若い世代にとってキムチは最も人気の高い漬物となっています。
朝鮮半島に唐辛子が伝来したのは17世紀
赤い唐辛子の色が食欲をそそるキムチですが、現在のようなキムチが生まれたのは、18世紀半ばと言われています。それまでのキムチにはにんにくは使われていましたが、唐辛子は朝鮮半島にはありませんでした。唐辛子は新大陸を発見したコロンブスによってヨーローパに伝えられ、アジアから日本を経て、17世紀頃に朝鮮半島に伝来したと伝えられています。唐辛子伝来は朝鮮半島の漬物の作り方を大きく変えていきます。
「薬念(ヤンニョム)」で漬け込むキムチ誕生
唐辛子伝来以前のキムチは塩水に漬けられる「冬沈(チムチェ)」タイプでしたが、唐辛子の辛さを生かすために水分を使用しない作り方に変わっていきます。水分は野菜から出る水分のみで、そのためキムチの保存性はさらに高まることになり、やがて、塩辛類が使われるようになります。塩辛は魚介類の保存食品で、この塩辛類が入ることでキムチには独特のうまみが加わるようになりました。この唐辛子、にんにく、塩辛類などを合わせたものを「薬念」と言い、薬念に漬け込んで作られる今日のキムチが作られるようになります。
「薬念」が生み出す複雑なうまみ
薬念は粉唐辛子、塩辛類、にんにく、しょうが、ねぎ、果物の汁などを混ぜて作る複合調味料です。白菜や大根などの野菜をこの薬念に漬け込むことで、乳酸発酵による成分分解が進み、複雑なうまみが誕生します。ほどよく酸味を感じる時がキムチの一番美味しい時。この時には唐辛子の辛さやにんにくのにおいもまろやかになり、塩辛成分から出たアミノ酸もこなれ、栄養価もさらに高まったキムチとなります。
キムチは汁ごといただく
キムチの汁には発酵作用で作り出されて乳酸菌、ビタミン、アミノ酸、有機酸が豊富に含まれています。ですからキムチを食べる時は、日本の漬物のように洗ったり汁を絞ったりしないで食べます。汁ごといただくことで、キムチは栄養満点の食品になります。また、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンには、気分をよくする「癒し成分」があることが解明されています。
キムチに含まれる主な成分
白菜や大根などの野菜を塩漬けした後に、「薬念(ヤンニョム)」という複合調味料で漬け込んで作るキムチは、朝鮮半島で生まれた栄養価の高い発酵食品です。発酵・熟成が進むにつれて乳酸菌が増え、新たにビタミンB群を生成します。薬念として使われるにんにくや唐辛子が、キムチの薬効を高めるために大きく寄与しています。
キムチ1gに億単位の乳酸菌が含まれている
キムチの乳酸菌は野菜の中のブドウ糖や果糖などの糖類を分解して乳酸や酢酸を作り出す「植物性乳酸菌」で、発酵・熟成が十分に進んだキムチには、1gに億単位の乳酸菌が含まれていると言われています。
植物性乳酸菌は動物性乳酸菌に比べて胃酸などに強く、生きたまま腸に届く割合が高いため、腸の働きや免疫力を高める働きに優れていると指摘されています。発酵することで増えたキムチの乳酸菌は腸内で大腸菌などの悪玉菌と戦い、腸内をキレイにして体の免疫力強化に働きます。また胃がんや慢性胃炎の一因と考えられているピロリ菌に対する抗菌作用があることも報告されています。
キムチの乳酸菌はギャバを作る
キムチの乳酸菌はギャバ(GABA)と呼ばれるアミノ酸を作ります。ギャバはγ(がんまー) ‐アミノ酪酸と呼ばれる脳内成分のひとつで、脳の活性に影響を与える成分です。脳に存在する抑制系の神経伝達物質として働き、ストレス緩和や興奮した神経を落ち着かせ、リラックス状態をもたらします。
ビタミンB群が豊富に作り出される
キムチは発酵が進むとビタミン成分が変化していきます。キムチを作る際に新鮮な野菜に含まれていたビタミンAやCは塩漬けによって減少していきます。が逆に、野菜にはなかったビタミンB1、B2、B12、ナイアシンなどが作り出されます。発酵作用により増えるビタミンB群はビタミンB1が1.5〜2倍、ビタミンB2は3倍、ビタミンB12、ナイアシンは0.5倍と言われています。
ビタミンB1は糖質を分解して疲労感や倦怠感を回復する、ビタミンB2はたんぱく質や脂質の燃焼に働き体内の過酸化脂質をできにくくして動脈硬化を予防する、ビタミンB12は悪性貧血を予防し脳の機能維持に関与する、ナイアシンは糖質や脂質の代謝にかかわり血行をよくするなどに働きます。
にんにくのビタミンB1と一緒に体力強化に働く
キムチが発酵する過程で生まれるビタミンB1は、糖質をエネルギーに変える働きを持っているため、欠乏すると糖質の不完全燃焼物がたまり、この状態が長期に続くと「脚気」(ビタミンB1欠乏症の一つで、心不全や末梢神経障害を発症する疾患)の原因にもなります。ビタミンB1はキムチ作りに使われるにんにくにも含まれており、発酵によって新しく作られたビタミンB1とにんにくのビタミンB1が、にんにくのアリシンと結合してアリチアミンと呼ばれる「にんにく型ビタミンB1」に変化します。アリチアミンは筋肉疲労や神経痛を和らげて体力を増進し、また、にんにくに含まれるスコルジニンはスタミナ作用を持っています。
悪性貧血や脳の機能維持に働くビタミンB12
キムチに含まれるビタミンB12は、キムチの副材料の塩辛類を使うことによって成分が約2倍増加すると報告されています。ビタミンB12はコバルトを含むビタミンで、悪性貧血や巨大赤血球性貧血の予防に有効に働き、また、脳の機能維持に関与して集中力や記憶力を向上させます。必須量は微量ですが、スムーズな生理機能に必要な成分です。植物性食品にはほとんど含まれていないので、厳格な菜食主義の場合には欠乏することがあり注意が必要です。
脂肪燃焼に働くカプサイシン
キムチに使われる唐辛子の辛み成分であるカプサイシンには、①血液の流れをよくして体を温める ②胃を刺激して消化液の分泌を促し、食べ物の消化吸収をよくする ③脂肪を燃焼させて肥満を予防する などの働きがあります。また、辛み成分の刺激は「エンドルフィン効果」という気分をよくする作用を持っています。
キムチレシピ
キムチは唐辛子、にんにく、しょうが、塩辛類、果汁などで作る「薬(ヤン)念(ニョム)」で漬ける発酵食品です。薬念に漬け込んだ白菜や大根などの野菜は、発酵作用により乳酸菌やビタミンB群が豊富な食品に変化します。乳酸菌は、野菜の中のブドウ糖や果糖などの糖類を分解して乳酸や酢酸を作り出す植物性乳酸菌です。チーズやヨーグルトなどの動物性乳酸菌よりも胃酸などに対する抵抗力が強く、腸に届く割合も高いという特性を持ち、腸の働きを整え免疫力を高める働きに優れています。キムチの栄養価は唐辛子・にんにく・しょうがなどの薬効でさらに高められ、特有のうまみは塩辛類によって醸し出されます。
漬物としてそのまま食べる他に、さまざまな食材と食べ合わせることでキムチの持つ栄養成分・薬効を日常的に取り入れる工夫をしましょう。日常的にキムチを食べている韓国の女性は、日本女性よりもカロリー摂取量は高いにも関わらず、体脂肪・内臓脂肪量は低いというデータもあります(1991年九州大学健康科学センターの調査)。豊富な乳酸菌・ビタミンB群・唐辛子のカプサイシンが、美肌&ダイエット食として期待できます。