魚の脂質は優れもの -小さい時から魚を食べる習慣を-
脂肪の摂取で大切なのは「脂肪の質」です
脂質はたんぱく質、炭水化物と並ぶ三大栄養素のひとつで、私たちの体を構成し、生命を維持し活動する上で欠かすことのできない栄養成分です。
しかし、近年の脂質の取り過ぎがさまざまな生活習慣病発生の要因となることが指摘され、過剰摂取に対する警鐘が鳴らされています。その世相を反映し全く脂質を取らない極端な食生活を送る人も出てきています。しかし、脂質は体にとって大切な栄養素。1日のエネルギー量の20~25%を脂質で取る食生活は、健康維持、生活習慣病予防などの重要な働きを担うことから、理想の食生活とされています。
脂質の摂取で大切なことは、量のみならず、脂質の質、つまり良質な脂質を取ることです。脂肪は植物や動物の体では「脂肪酸」という形で蓄えられています。
必須脂肪酸ω3脂肪酸は食べ物からしか取れない
魚は種類にもよりますが、脂質を多く含んでいます。脂肪含有量が高いほどうまみが増し、脂肪の乗る産卵期前がもっとも美味とされています。
魚の脂肪は不飽和脂肪酸で、「水素原子のペアが2つ以上失われている形の脂肪酸」のため、多価不飽和脂肪酸と呼ばれています(「水素原子のペアがひとつ失われている形の脂肪酸」は一価不飽和脂肪酸といわれている。状態は常温で液体。オリーブ油やサフラワー油に多く含まれている)。
魚に多く含まれている多価不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(イコサペンタエン酸)はω3脂肪酸と呼ばれ、体内でつくることができないため、必須脂肪酸と呼ばれています。必要なのに体内でつくることができないため、食品などから取らなければならない栄養素です。
多価不飽和脂肪酸は常温ではやわらかい状態か、液体状になっており、大豆油やひまわり油などにも多く含まれています。常温でかたまらない性質が、私たちの体に入った時に固まらずに血液の流れをスムーズにしてくれるのです。
心臓疾患やアルツハイマーを予防する
ω3脂肪酸のDHAやEPAを含む魚には素晴らしい働きがあります。
2004年、FDA(米食品医薬品局)はDHAとEPAは心臓疾患の防止に役立つという見解を発表しました。米国での死因のトップは心臓疾患。心臓病の危険性を減少する魚の存在は大きく、アメリカ農務省は2005年度版国民栄養ガイドラインで魚の摂食をすすめています。
さらにアルツハイマーに関する研究調査も発表されています。
カルフォルニア大学ロサンゼルス校の研究グループがマウスにDHAを与える実験をした結果、アルツハイマーを防止する効果が優れていたと発表しました(Neuron2004年9月2日号)。タフツ大学研究グループでは「週に3回魚を食べると、アルツハイマー症の危険性が半分になる」と報告、シカゴの研究グループの「1週間に最低1回魚を食べた被験者は、稀にしか食べないか全く食べないグループに比べアルツハイマー病に罹る割合は60%低かった」という報告も発表されています。
また、ω3脂肪酸が神経系統に働きかけることも知られており、英国グループの「若者の敵意などの興奮を鎮静化させる作用もある」という研究報告や、軽度の精神性疾患患者の症状にかなりの改善が見られた」というハーバード大学の研究グループの報告もあり、魚の脂質は世界的な規模で認知されています。
さらに、乳がんリスクを軽減する
一方日本では、「魚を多食する人は、あまり食べない人に比べて、乳がんにかかるリスクが4割以上低い」という調査研究が、2004年9月29日開催の日本癌学会で発表されました。これは文部科学省研究班が1988~1990年にかけて、全国の40~79歳の女性約2万5400人を対象に食生活のアンケートを行い、その後7年半にわたって健康調査をした結果によるものです。
近年の脂肪の摂取量過多により、日本女性の乳がん発生は増加の傾向にあると指摘されています。しかし今回の調査から推測されることは、魚の脂質を多く取ることは、逆に乳がんリスクを軽減するということで、魚の脂質にはがんの抑制効果もあることが確かめられたと考えられます。まさに脂肪の質が疾患に影響を及ぼしているのです。
長い間の「一汁三菜」を基本とする和食の中で、動物性たんぱく質を魚で取ってきた日本型の食生活が、欧米に比べて低い乳がん羅患率を生み出してきたことを裏付ける報告と考えてよいでしょう。
もちろん、魚を食べれば乳がんにならないという訳ではありません。野菜も豆類もそして肉類もバランスよく食べることが大切です。しかし、今回の調査結果では、魚を毎日食べる人ほど乳がん発生リスクが43%も低かったのです。
魚を多食する日本の子どもは頭がいい?
「欧米に比べて日本の子どもの知能指数が高いのは、魚をたくさん食べているから」という説がロンドン発共同通信レポートで発表されたのは1989年。このレポートはイギリスの学者、マイケル・クロフォード教授が1972年に発表した「DHAは脳の障害と関係する」という仮設を裏付けるために行われた研究の末に、発表されたレポートです。
この情報は瞬く間に全世界に広がり、DHAを多く含有する魚が脚光を浴びました。当時、レポート対象となった日本の子どもたちの食生活は、魚を多食する日本型の食生活でした。
それから15年、DHAが学習能力を高めて健脳効果に優れていることや、EPAが血中コレステロールを下げて血栓を予防し血液をサラサラにすることは広く知られているところです。記憶力を向上させ、動脈硬化を防ぎ心筋梗塞や脳梗塞を予防する。にもかかわらず、魚の苦手な子どもがたくさんいます。
食は文化であり、味覚はトレーニング。小さい時から魚を食べる習慣をつけましょう。1日3食の内1回、あるいは週に3~4回は魚を食卓に登場させましょう。四方を海に囲まれ海の幸を享受できる国に生まれたことに感謝して、魚を大切に食べたいものです。
ちなみに脂肪酸摂取の割合はバランスが大切で、第六次改訂日本人の栄養所要量では飽和脂肪酸:不飽和脂肪酸(一価脂肪酸と多価脂肪酸)は3:7に近づくように取ることを推奨しています。