やぶかんぞう
やぶかんぞう(藪萱草)とは
古くから食用されていたやぶかんぞう
やぶかんぞうはユリ科ヤブカンゾウ属の多年草です。人里近くの道端や土手、田の畔や山野など全国各地に自生し、葉は細長く夏に長い花茎の頂上に橙赤色の八重の花を咲かせます。若芽や蕾は古来より食用され、一部が紡錘状に膨らむ根茎は薬効があるとされ、中医学では黄疸や利尿の治療に用いられてきた歴史を持っています。「かんぞう」の名は漢名の「萱草」を日本読みしたもので、「やぶ」は藪のような場所に生息することから名づけられたと考えられています。
「甘草(かんぞう)」と「萱草(かんぞう)」は別種のもの
ユリ科ヤブカンゾウ属の多年草には、やぶかんぞうの他に「のかんぞう」「にっこうきすげ」「ゆうすげ」などがあります。のかんぞうは若葉の頃はやぶかんぞうと形姿が類似しており区別が困難ですが、やぶかんぞうの花が八重であるのに対してのかんぞうは一重六弁の花をつけるため、花が咲くと容易に区別することができます。漢方薬として有名な「甘草(かんぞう)」はマメ科の多年草で、「萱草(かんぞう)」とは別種のものです。
別名「わすれぐさ」とも呼ばれ、万葉集や古今集で詠まれる
やぶかんぞうは中国の「ほんかんぞう」の変種と考えられ、有史以前に中国大陸から渡来した帰化植物といわれています。中国古書の『文選(もんぜん)』養生論に「萱草忘憂」の記述があり、この花を見て憂いを忘れるという故事から、別名「わすれぐさ」とも呼ばれています。心配事を忘れるほど美味であるという一説もありますが、日本では万葉集や古今集で詠まれ、平安時代中期の辞書『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には「和須礼久佐(わすれぐさ)」の名が登場しています。
船乗りの必需品だった鉄分豊富な「金針菜」
春の若葉は山菜として美味で、根ぎわの白い部分にはねぎのようなヌメリが、また6~8月頃の花蕾はほのかな甘みがあります。採取した花蕾を熱湯で数分ゆがいてから日干しして乾燥させものを、生薬では「金針菜(きんしんさい)」といい、解熱・風邪・不眠症・むくみ・利尿などの症状緩和に利用されています。金針菜は鉄分を豊富に含んでいることから、古代中国では船に積み込まれ船乗りの必需品だったと伝えられています。乾燥させた花蕾を使用する時は、湯で戻してから使います。
沖縄県の伝統野菜「くわんそう」
やぶかんぞうの近縁として、沖縄に自生している「くわんそう」とい野草があります。やぶかんぞうと同じユリ科ヤブカンゾウ属の植物で、琉球王国の時代から食材として利用されてきた歴史を持っています。現在、沖縄県の伝統野菜のひとつに認定され、計画的な栽培も行われています。和名を「秋のわすれぐさ」といい、安眠やイライラ予防に有効とされ、健康食品として活用されています。
やぶかんぞうに含まれる主な成分
中国から伝来した帰化植物のやぶかんぞうは、全国各地の人里近い道端や土手などに広く生息している野草です。雑草扱いされて刈り取られることが多く、また栽培もされていないため食すことのできない野草と思われがちですが、高い栄養価を持ち、古来より食用されてきた歴史を持っています。β‐カロテン、鉄・カルシウム・カリウムなどのミネラル類、食物繊維、アスパラギン酸を含み、体の生理機能を整える働きに優れています。
豊富なβ‐カロテンが眼に栄養を与え、美肌を作る
やぶかんぞうの緑の色には植物の持つβ‐カロテンが豊富に含まれています。カロテンはカロチノイドの一種で、「α‐(アルファ)」「β‐(ベータ)」「γ‐(ガンマ)」などがあり、体内に入るとビタミンAの働きをします。特にβ‐カロテンはビタミンAの働きに優れ、高い抗酸化力を発揮して、眼に栄養を与え、皮膚や粘膜を健康に保つ働きをしてくれます。植物の色素のカロテンは吸収率が低いという欠点がありますが、脂溶性のため油
を使った調理法にすると吸収率を高めることができます。緑葉中ではクロロフィルと共存しています。
女性に多い貧血予防に有効
やぶかんぞうに豊富に含まれる鉄分は、女性に多い貧血予防に有効に働きます。鉄分は主に血液中のヘモグロビンに含まれ、血液に酸素を運ぶ働きに欠かせない成分です。そのため不足すると血液に酸素を運ぶ機能が低下するため、息切れや疲労しやすいなどの症状が引き起こされます。また、胃酸の分泌が衰えることから食欲不振や消化不良なども引き起こされます。ビタミンCを一緒に取ると吸収率が上がるので、効率よく取るにはビタミンCと一緒に取る食べ合わせが大切です。
体の働きを順調にするカルシウム
カルシウムは骨や歯を丈夫にし、体の働きを順調にするミネラルです。不足すると骨折、歯がもろくなる、筋肉のけいれん、イライラ、出血が止まらないなど様々な障害が引き起こされます。飽食の時代といわれる現代ですが、慢性的なカルシウム不足の人は多く、特に子ども・授乳婦・お年寄りには不可欠な栄養素です。
体にスタミナをつけ、ストレス解消に有効なアスパラギン酸
アスパラギン酸は体内でも合成される非必須アミノ酸のひとつで、アスパラガスの穂先から発見されたことからこの名で呼ばれています。エネルギー代謝を高め、カルシウムやカリウムなどのミネラルを全身にスムーズに運ぶ働きがあり、疲労に対する抵抗力を高め体にスタミナをつける成分として有名です。有害物質を体外に排泄する、肝機能を強化する、ストレスを解消し神経を鎮める働きなどがあることから、やぶかんぞうは古代より心臓病や滋養強壮の薬として利用されてきた歴史を持っています。
血管疾患の予防にも有効な食物繊維
食物繊維はエネルギー源にはなりませんが、体の生理機能を整える働きを持っていることから、第6の栄養素と位置付けられています。水に溶ける水溶性のものと、水に溶けない不溶性の食物繊維があり、双方をバランスよく取ることが大切です。水溶性も不溶性も吸収されずに大腸まで到達し、便秘解消、コレステロール値や血圧の低下、食後の血糖値の急激な上昇を防ぐなどの働きを持っています。血管疾患の予防には「豊富な食物繊維摂取」が関係すると発表されています。
やぶかんぞうのゆで方
春先の若葉はやわらかく、そのままでも食べることができますが、基本はゆでてから料理に使用します。ゆで上がったらすぐに水に放すのは、温度を下げるためなので、長く水にさらさずすぐにザルに上げましょう。天ぷらにする時はゆでる必要はありません。
やぶかんぞうのゆで方
- 採取したやぶかんぞうはよく洗い、水気をきる。
- 鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、塩少々を加え、水気をきったやぶかんぞうを約1分ゆでる。
- ゆであがったらすぐに水に放し、ザルに上げる。
やぶかんぞうレシピ
日本各地の人里に自生するやぶかんぞうは、春の若葉はごま和えやお浸しなどで食され、夏に花咲く花蕾は中医学では「金針菜(きんしんさい)」と呼ばれる生薬です。葉も花蕾もともに薬効に優れていることから、食材として、体調不良時の症状改善として食されてきた長い歴史を持っています。
β‐カロテン、鉄分やカルシウムなどのミネラル類、食物繊維、アスパラギン酸などのアミノ酸などを含んでおり、三大栄養素のたんぱく質・脂質・糖質を一緒に食べ合わせると、体の生理機能が整う栄養バランス食になります。