つくし
つくしとは
語源は「つきづきし=調和している」
つくしはトクサ科の多年草で、すぎなの繁殖器官・胞子茎です。早春の草原や田畑の畦など平地や山地を問わず、日当たりのよい所に姿をあらわす野草です。筆先に似た頭をもたげる姿から「土筆」と表記され、中国では「筆頭菜(ひっとうさい)」と呼ばれています。何本も並んで生えている様子から、古語の「つきづきし=調和している」が語源と推測され、「つくづくし」「つくつくし」などと呼ばれるようになったといわれています。また、その地によって「つくしんぼ」「つくしん坊」「筆の花」などの愛称でも呼ばれています。
前葉体を作ってより強い子孫を作る
つくしが伸びてくると、近くに小さな緑色のすぎなが姿を現します。つくしとすぎなは、ふきのとうとふきのように地下茎でつながる親子のような関係です。地下で生まれたつくしは厚い袴(はかま)に包まれて育ち、早春の頃に地上に顔を出し成長していきます。成長すると筆先のような穂先から胞子を放出。胞子の数は140~220万ともいわれ、風に運ばれて地上に落ち、水分を含んで発芽し前葉体という植物になります。前葉体では卵細胞と精子が作られ、受精すると芽(この芽がすぎな)を出して、運ばれたその地で繁殖していきます。地下茎で繁殖していくにもかかわらず胞子を飛ばして前葉体を作る理由は、より環境の変化に強い子孫を誕生させ繁殖していくためです。
古代から変わらないつくしの構造
つくしとすぎなの先祖は、水辺に生えていた「蘆木(ろぼく)」という樹木のような大きな生物だったといわれています。同じ科の「みずすぎな」や「みずどくさ」は、現在も湖沼や池・川岸などに群生していますが、つくしとすぎなは環境の変化に適応しながら姿を変え、現在のような日当たりのよい場所に群生する姿に変わっていったと考えられています。つくしとすぎなは水中生活から陸上生活へと移った植物の橋渡し的存在と推測されています。
つくしは早春の季語。歌材として登場するのは近世
和歌の世界で早春の季語として扱われているつくしですが、古代の和歌の世界では早春の歌材としてはわらびの方の人気が高く、つくしが歌材として登場するのは近世になってからです。鎌倉時代初期に藤原為家(ふじわらのためいえ)が詠んだ「佐世保姫の 筆かとぞみるつくづくし 雪かきわくる春のけしきは(残雪をかき分けるように頭を出した土筆を、佐世保姫のための筆かと見た)」(『夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)』)があり、室町時代には狂言「土筆(つくづくし)」が観客を楽しませています。
つくしに含まれる主な成分
地下茎で繁殖できるにもかかわらず胞子を飛ばして前葉体を作り、より環境に適した強い子孫を残すつくしは、高い生命力とさまざまな薬効を持っている野草です。ビタミンやミネラル、食物繊維などをバランスよく含んでいるため、整腸、利尿、高血圧予防、骨粗鬆症予防など体の生理機能を整える働きに優れています。とはいえ、アルカロイドを多く含んでいるので、大量に摂取するのは控えましょう。
生薬に含まれる成分は利尿や止血薬として利用されてきた
つくしを乾燥させたものを生薬では「問荊(もんけい)」と呼んでいます。問荊は3~4月に採取したつくしの茎部分を日干しにしたもので、ツクシフラボノイドや葉酸、各種ビタミン類やミネラル類、食物繊維などが含まれています。それら成分の働きにより、つくしは古来より利尿や止血約として利用されてきました。
抗アレルギー成分が豊富なツクシフラボノイド
つくしのアルコールエキス中に含まれるツクシフラボノイドはポリフェノールの一種で、活性酸素を除去しコレステロールを減少させる働きを持っています。そのため、つくしを常食すると、細胞のがん化が防止され、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病の予防に働きます。また、つくしには抗アレルギー成分が多く含まれ、アレルギーの原因物質であるヒスタミンやロイコトリエンの遊離を抑える作用のあることが発表されています(日本大学の研究。2006年、徳島県の池田薬草が花粉症対策として「つくし飴」を製造販売)
ミネラル類が高血圧や骨粗鬆症予防、精神安定に働く
つくしにはカリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどのミネラルが含まれています。カリウムは細胞内の酵素反応を調整する働きと同時に、ナトリウムが腎臓で再吸収されるのを抑制して尿への排泄を促すため、高血圧予防に働きます。カルシウムは骨の代謝に関与し、神経の興奮を抑制する働きを持っています。リンはカルシウムに次いで体内に多く含まれているミネラルで、生命活動を支える重要な役割を持っています。それらのミネラルの働きにより、高血圧や骨粗鬆症の予防、精神安定に働きます。
葉酸が造血や発育に働く
つくしには葉酸が含まれています。葉酸はビタミンB群の一種で、ビタミンB12とともに新しい赤血球を正常に作り出すために必要不可欠な成分であり、「造血のビタミン」とも呼ばれています。核酸(DNAやRNA)の合成に働く補酵素として細胞分裂などに関与しているため、増血や発育に欠かすことのできないビタミンです。
多様な働きを持つビタミンCを含む
つくしにはビタミンCが含まれています。ビタミンCは実に多様な働きを持っているビタミンです。細胞同士をつなぐ役目を持つコラーゲンの生成に関与するため、不足すると細胞分裂が弱くなり壊血病を引き起こします。免疫力を高める白血球の働き強化、メラニン色素の生成抑制、抗ストレス作用を持つ副腎皮質ホルモンの合成促進などに働きます。貧血時にも鉄と同時に、赤血球の再生を助けるビタミンCが必要不可欠です。
カロテンが夜盲症や風邪予防、美肌に働く
つくしに含まれるカロテンは体内でビタミンAの働きをする成分です。眼に栄養を与え、皮膚や粘膜を健康に保つ働きを持っているため、欠乏すると夜盲症、消化吸収の低下、風邪を引きやすくなる、肌が乾燥するなどの症状が引き起こされます。カロテンは吸収率が低いのですが、脂溶性のため、油を使った料理法にすると吸収率を高めることができます。
腸内環境を整え生活習慣病の予防にも働く食物繊維
つくしにはビタミン類やミネラル類と同時に食物繊維も豊富に含まれています。食物繊維は腸内の善玉菌を増殖して腸内環境を整え、便秘を解消して整腸作用に働きます。さらにコレステロールを排出する働きを持っており、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病予防にも有効に働きます。
微量で多彩な生理活性を示すアルカロイド
つくしには体の生理機能を整える働きを持つビタミンやミネラルが豊富に含まれていますが、アルカロイドも含まれているので多食は避けましょう。アルカロイドは植物体に含まれる窒素を含む塩基性の有機化合物です。多くは酸と結合して塩になっており、毒性や特殊な生理・薬理作用を持っています。代表的なものとして、タバコのニコチン、お茶のカフェイン、けしのモルヒネなどがあり、微量で多彩な生理活性を示すことから医薬品として用いられ、新たな医薬品開発にも重要な位置を占めています。
つくしの下処理
つくしを料理に使う時は、まずつくしの袴(はかま)を取り除きます。袴は葉が退化したもので、繊維質でかたくて食べられません。少々手間がかかりますが、爪でていねいに取り除き、その後、熱湯でゆでてアク抜きします。これでつくしの下処理は終了。下処理したつくしは冷凍保存が可能ですので、旬以外の時期につくし料理を楽しむことができます。
つくしの下処理法
- 採取したつくしは新聞紙の上などでよくふるい、花粉を落とす。
- 爪でていねいに袴を取り除く。
- 袴を取ったつくしを水に30分位浸ける。
- たっぷりの湯で15~20秒位ゆで、水に放しザルにあげる。
- 水を数回換えてつくしを洗い、たっぷりの水に一晩浸ける。
- 水気を切って料理に使う。使いきれない場合は、水切りしたものを冷蔵庫で保存する(4~5日は保存可能)。長期保存の場合はフリージング用の袋に平たく並べ、冷凍庫で保存する。
つくしレシピ
つくしは早春、全国各地の日の当たる所場に自生する野草です。かたい繊維質の袴(はかま)を持っており、まずはこの袴を取り除きアク抜きしてから料理に使います。つくしは野菜として栽培されていないため、早春から春にかけての自然の中でしか食すことのできない季節感溢れた食材です。この時期ならではの自然の恵みを堪能してください。
機能性成分のツクシフラボノイドや食物繊維、ビタミン類やミネラル類を含んでいるつくしは、栄養価の高いたんぱく質や脂質、糖質などと一緒に食べ合わせると、体の生理機能が整えられ、健康維持に有効な食材となります。