にんにく
にんにくとは
紀元前3200年頃にすでに栽培されていた
にんにくは太陽を好み、昼夜の温度差のある場所で生育するユリ科の多年草で、原産地は諸説ありますが、中央アジア説が有力です。歴史は古く、紀元前3200年頃のエジプトではたまねぎと一緒に栽培され、1300年頃にはピラミッド建設の労働者たちがにんにくを食べて過酷な労働を乗り切っていたと文献に残っています。にんにくはエジプトから古代ギリシャ、ローマ、ヨーロッパ全域へと伝わり、日本へは中国を経て弥生時代に伝来したと考えられています。
悪霊除けや強壮食品として用いられた
日本に伝来したにんにくには「大蒜(おほひる)」「葫(こ)」の文字が当てられ、スタミナ野菜の五葷五辛(ごくんごしん)(にんにく、にら、ねぎ、らっきょう、のびる)として珍重されていました。伝来直後から悪霊除けや強壮食品として用いられており、『古事記』の中に倭建命(やまとたけるのみこと)がにんにくで悪霊を退治したという記述があり、『医心方(いしんほう)』(我が国最古の医術書。984年完成)では「にんにくであえものを作って、膾や肉を食う」と食べ方が説明され、効能については「味は辛で刺すように辛い。性は大温。鬼毒やいろいろの毒気を消す」と書かれています(文献:『日本古代食事典』)。
デザイナーフーズ・プログラムで上位に位置する食品
にんにくは古今東西を問わず世界中でもっとも使われている料理の素材です。にんにくの摂取と健康との関係に関する研究として、もっとも有名なのは「デザイナーフーズプログラム」でしょう。デザイナーフーズ・プログラムは1990年にスタートしたアメリカ国立ガン研究所のプロジェクトの名称です。このプロジェクトが「ガン予防を期待できる食品」として約40種類の食品を発表し、その筆頭ににんにくが挙げられています。
400種もあるといわれるにんにくの品種
にんにくの品種は野生種を含めると約400種もあるといわれています。しかし流通している品種はさほど多くなく、日本では青森や秋田などで栽培される寒地系の福地ホワイトやホワイト六片、九州や沖縄などで栽培される暖地系の壱州早生や山東種などが流通しています。輸入物として中国産も多く出回っていますが、国産物は型も大きく香りもよく、根も鱗茎も外側の皮も白色で、鱗片の数が5~6個と少ないため調理しやすいなどの利点があるため、値段は高めですが高いニーズがあります。国産にんにくの国内生産量の約70%を青森県が占めています。
夏が旬のにんにく。収穫後も生長を続ける
通年を通して店頭に出回っているにんにくですが、旬は夏です。豊富に出回る6~8月のにんにくは値段も安く、にんにくの保存食品を作るならこの時期のにんにくで作るとよいでしょう。もともとにんにくは保存性の高い野菜ですが、収穫後も生長しており、生長に必要なエネルギーを自分自身で蓄えた養分(糖質)で賄うといメカニズムをもっています。そのため長くおいて置くと芽が出てきて、栄養分が芽に取られ味が落ちていきます。
温度と湿気に弱いにんにく。保存は冷蔵庫で
鮮度を長く保つためには発芽を遅らせることが大切です。にんにくの最適な環境は、温度マイナス3℃、湿度70%前後の冷暗所といわれているため、冷蔵庫で保存すると発芽を遅らせることができます。また、にんにくは湿気に弱いのでビニール袋などに入れて密閉するとカビ発生につながるため、通気性のよいネットなどに入れて(あるいは新聞紙に包んで)冷蔵庫に入れることで劣化を遅らせることができます。冷蔵庫で保存しても長期の保存は難しいので、1年・2年と長期間保存する場合は、しょうゆや酢などに漬ける保存法が最適です。
にんにくの芽も栄養成分が含まれている
芽が出たにんにくは、そのまま焼いたり揚げたりすると苦みなどが出るため、取り除いて調理するのが一般的です。しかし、芽の部分はビタミン類が豊富に含まれているので捨てずに食べてください。刻んでハンバーグや餃子の具に混ぜたり、天ぷら、煮物などに利用するとおいしく食べられます。
にんにくに含まれる主な成分
弥生時代に伝来したにんにくは、強烈な刺激臭を持つゆえに、悪霊除けや強壮食品として利用されてきた長い歴史を持っています。にんにくの薬効は何といってもその強烈な刺激臭を持つ「アリシン」によるものです。その他スコルジニンやゲルマニウム、セレンなどの成分が含まれており、にんにく摂取は総合的に血行促進、疲労回復、抗がん作用などに働きます。
強い殺菌力や疲労回復効果を持つアリシン
にんにくにはアイリンという無色無臭の結晶成分がたくさん含まれています。このアイリンは切ったりおろしたりして空気中の酸素に触れると、にんにくに含まれているアリナーゼという酵素の働きによりアリシンという硫黄性化合物に変化します。にんにくの強烈な刺激臭はこのアリシンによるものなので、粒のままであれば刺激臭は生まれません。アリシンは強い殺菌力を持ち、食品についた細菌のみならず、体内に侵入した風邪などのウイルスまでも殺す力を持っています。
アリシンは血行をよくして肝臓を守る
アリシンには血行をよくする働きもあり、冷え性、肩こり、腰痛などにも効果があり、胃粘膜を刺激して胃液の分泌を促すため食欲増進に働きます。また、肝臓の働きを活発にし、有害物質から肝臓を守る働きがあるため、お酒を飲む前ににんにくを食べると、肝臓の解毒酵素を増やして二日酔いなどの症状予防に有効です。すい臓のインスリンの分泌を活性化する働きもあるため、糖尿病やすい臓がんの予防や改善にも効果が期待できます。
ビタミンB1と結合してアリアチミンに変化する
アリシンはビタミンB1と結合するとアリアチミンという物質に変化し、ビタミンB1の吸収を高める働きをします。ビタミンB1はエネルギー生産に必要不可欠な水溶性のビタミンですが、体内での吸収率が悪く、大半が体外に排出されてしまうという欠点をもっています。しかし、アリシンと結びついてアリチアミンという物質になると、吸収率がよくなり、体内に長く留まり、新陳代謝が活発になります。体内でエネルギーがスムーズに生産されることにより、滋養強壮、疲労回復や脳の活性化、ダイエットなどに効果を発揮します。
アリシンの加熱で生まれるアホエン
アリシンは加熱(50~80℃)するとアホエンという物質が生成されます。アホエンは強い抗菌作用と抗血栓作用があり、血液をサラサラにして血流をよくし、血栓ができるのを防ぐため、脳卒中や心筋梗塞などの予防に働きます。このアホエンの作用は微量でも得られ、効果は3日間ほど持続するといわれています。脂溶性なので、油と一緒に取ると吸収がよくなります。
ホルモンを刺激して強壮作用に働くスコルジニン
にんにくにはスコルジニンという微量栄養素が含まれています。スコルジニンはホルモンを刺激するため強壮効果に優れています。新陳代謝を活発にして血行を促す作用に優れているため、体全体がぽかぽかして冷え性予防に働きます。さらに疲労回復や心臓の働きを活発にする作用にも優れています。
ゲルマニウムが体の隅々まで酸素を運ぶ
にんにくにはゲルマニウムという鉱物由来のミネラルが含まれています。ゲルマニウムには有機と無機の2種類があり、にんにくに含まれるゲルマニウムは有機ゲルマニウムです。有機ゲルマニウムは水溶性のため血中に溶け込み、体内の酸素と結合して体内の隅々まで酸素を運ぶ働きをします。酸素を体の隅々まで運び、疲労回復・強壮作用・抗がん作用などに働きます。体外への排出性も高く、中毒の心配のない安全性の高い成分です。
セレンが発がん抑制に働く
硫黄性化合物を豊富に含んでいるにんにくにはセレン(セレニウム)が含まれています。セレンは1817年に発見された必須ミネラルです。多くの食品に含まれているため通常の食事で不足することはありませんが、毒性が強く必要量と中毒量の差が非常に小さいため、サプリメントなどによる摂取には注意が必要です。セレンが過剰な土壌で育った作物の過剰摂取は中毒症を引き起こすことが報告されています。にんにくは他の食品に比べてセレン含有が高く、水銀や鉛などの有害金属を体外に排出する作用や過酸化脂質の生成を防いで発がん抑制に働きます。
にんにくレシピ
丸い形をしているにんにくは、その形体から中国では「円満」を表すものとして食され、また高い解毒作用を持つため、世界中で日常的に料理に利用されている食材です。
特有の強い刺激臭は時間が経つほど強くなるので、食べる直前に調理するとよいでしょう。加熱すると臭いがやわらぎますが、にんにくの高い薬効はアリシンという強烈な刺激臭に豊富に含まれているので、特有の刺激臭を上手に取り入れましょう。とはいえ刺激が強いため、まれにお腹を壊すこともあるので、生食の場合は一日1粒を目安に召し上がってください。
毎日少量ずつ(2~3片)取り入れる食べ方が、にんにくの持つ優れた薬効を取り入れることにつながります。