はこべ

はこべとは

山野に自生し、寒冷にも強い

はこべ

はこべはナデシコ科の2年草で、高い薬効を持つことから春の七草(せり、なずな、御形、はこべら、仏の座、すずな、すずしろ)のひとつに数えられている野草です。古くは「はこべら」の名で呼ばれていましたが、食用・薬用など使用が多岐に亘り、また小鳥が好んで食べることから、「はくべ・みどりはこべ・はっかそう・ときしらず・すずめぐさ・ひよこぐさ・あさしらべ」など各地それぞれの方言名を持っています。路傍や土手、野原や畑の片隅などいたる所に自生し、細い茎は直立せずに地面を這い、葉は卵円形。寒冷にも強く、雪を掘り起こすと、青々とした緑の姿を見せてくれます。

はこべ

古来より様々な健康維持に利用されてきた

山野に自生する生命力の強いはこべは、生薬名を「繫縷(はんろう)」といい、脾(ひ)(消化吸収の働きの総称をいう)や胃に作用するとされ、古来より健胃・歯槽膿漏(歯周病)・利尿・母乳不足・産後の肥立ち・心臓病などの症状緩和や治癒などに利用されてきました。消化性に優れていることから民間療法では盲腸への特効性が高いといわれ、はこべの搾り汁や煎じたものを飲むと、軽度の盲腸炎は治癒すると伝えられています。

歯磨き剤として利用されてきたはこべ

はこべは炎症を緩和する働きがあるとされ、古くから歯磨き剤として利用されてきた歴史を持っています。江戸時代に著された図入り百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』(寺島良安 著)には「はこべの青汁を塩とともにアワビの殻に入れて焼き、乾いたらまた青汁を入れて焼くという作業を7回繰り返す」と作り方が記載されています。また、はこべの粉末と塩を混ぜて作る方法も民間療法として伝わっており、はこべと塩を合わせて作ったはこべ塩を指先につけて歯を磨くと、化膿菌の繁殖が抑えられ、歯槽膿漏(歯周病)の予防に働くといわれています。また、歯痛には塩もみしたはこべを丸め、それを歯の間に挟んで噛むと痛みが治まると伝えられています。

はこべは「コンパニオンプランツ」

はこべはコンパニオンプランツとも呼ばれています。コンパニオンプランツとは「共栄作物」ともいわれ、主植物の傍に栽培することで主植物の生長にプラスに働く植物をいいます。はこべはにんじんと有効関係を持っているといわれ、にんじん畑にはこべが群生していると、にんじんの生長が健やかになるといわれています。また、はこべは大根とも相性が良いといわれており、雑草としてむやみやたらに引き抜かず、共栄させる栽培法が伝えられています。

戦時中には救荒作物として栽培されていたはこべ

寒さに強いはこべは、緑の少ない冬場の貴重な栄養源です。フラボノイドやビタミン、ミネラルなどを含み、生命力が強く薬効の高いことから、ドイツでは戦時中に救荒作物(きゅうこうさくもつ)(凶作時にも収量があり、主食の代用として飢餓をしのぐための作物)として栽培されていました。一方、日本ではその旺盛な繁殖力から雑草扱いされ、「春の七草」で食されるくらいですが、欧米ではコンパニオンプランツとして共生し、そのままサラダなどで食されています。小鳥が好む野草として世界中に知れわたり、英名では「チックウィード(chick‐weeds)=鳥のエサの意味」と呼ばれています。

はこべに含まれる主な成分

山野に自生し、寒さに強いはこべは花期が終わるとすぐに結実し、次々と芽を出す生命力に溢れた野草です。中医学では「血の道を司る」植物とされ、産後の浄血や肥立ち、母乳不足などの改善に利用されてきました。はこべは全草にフラボノイドを含み、B群やCなどのビタミン類、カルシウムや鉄分などのミネラル類、酵素、サポニン、カロチノイドなど、体の生理機能を整える成分が豊富に含まれています。

フラボノイドが細胞の酸化予防に働く

はこべの全草にはフラボノイドが含まれています。フラボノイドは植物の緑葉や柑橘類の皮部分に多く含まれる植物色素の総称で、糖と結合した形で多くの植物に含まれています。ポリフェノールの一種で、種類は数千種以上あるといわれています。発芽などの生理作用や過酸化物質の分解に働くとされ、取り入れることで細胞の酸化が予防され抗がん作用や老化防止作用などが高まり、毛細血管の強化、動脈硬化予防、血圧正常化維持などに働きます。

はこべの酵素が健康維持に働く

はこべには酵素が豊富に含まれています。酵素は生命活動をしている生物にとって必要不可欠な成分です。細胞内で作られるたんぱく質で、ひとつの役割のみにしか働かないため、人体内には数千種類もの酵素が存在しているといわれています。はこべに含まれる酵素(外部酵素といいます)を体内に取り入れることで、消化が高まり吸収された栄養素が体中に行きわたり、自然治癒力アップが期待できます。

はこべのビタミン類(A・B・C)が免疫力向上や美肌に働く

はこべの葉の緑色には体内に入るとビタミンAに変わるカロテンが含まれています。ビタミンAは眼に栄養を与え、皮膚や粘膜を健康に保つ働きを持っている脂溶性のビタミンです。植物に含まれるカロテンは吸収率が低いのですが、油を使った料理法にすると吸収率がグンと高まります。ビタミンB群はたんぱく質・脂質・糖質の代謝に働く水溶性のビタミンで、疲労回復・エネルギー精製・成長促進などに働きます。ビタミンCは毛細血管や歯、結合組織を丈夫にする働きのある水溶性のビタミンで、活性酸素の抑制・美肌・免疫力強化などに働きます。

はこべレシピ

山野に自生し、寒さに強いはこべは雪の下でも次々と芽を出す生命力に溢れた野草です。ビタミンやミネラル、抗酸化力の高いフラボノイドやカロテンなどを含み、体の生理機能を整えて健康維持に働きます。良質なたんぱく質や脂質などと一緒に食べ合わせると、抗酸化力の高いバランス健康食になります。戦時中のドイツで救荒作物として栽培されていた歴史からも分かるように、繁殖力に優れているはこべは非常時の身近な栄養源として、また青味野菜の少なくなる冬場の貴重な栄養源として利用され食されてきました。一年中利用できる身近な野草として、はこべを日常的に利用することで、自然の持つ薬効を体に取り入れましょう。
※はこべ特有の青臭さが苦手な場合は、水にさらす時間をたっぷり取ってください。

はこべと鶏ひき肉のトーストサンド

はこべと鶏ひき肉のトーストサンド
鶏肉は消化に優れ、良質なたんぱく質と脂質を含んでいることから滋養食として最適な肉です。ビタミンAも豊富に含み、はこべのカロテンと一緒に粘膜を丈夫にして肌荒れや夜盲症予防に働きます。はこべと鶏肉を酵素が豊富な塩麹と一緒に取ると、取り入れられた栄養素が体中に行きわたり、はこべのフラボノイドの効能が免疫力を高め、自然治癒力アップに働く食べ合わせになります。食パンで糖質を、野菜でビタミンCが取れる栄養バランスに優れたメニューです。

はこべと雑穀米のくるみ味噌おにぎり

はこべと雑穀米のくるみ味噌おにぎり
はこべと雑穀米を一緒に取ると、豊富に含まれるビタミンB群やミネラル、食物繊維の働きにより、疲労回復や便秘予防、血中コレステロール低下などが期待できる食べ合わせになります。くるみのたんぱく質は良質で吸収率が高く、脂質は血管壁にこびりついた悪玉コレステロールを取り除いて動脈硬化などの予防に働き、豊富に含まれるビタミンEが体や脳の老化防止に効果を発揮します。味噌が抗酸化力を高めて細胞の酸化予防効果をさらに高めます。炭水化物・たんぱく質・脂質の三大栄養素が取れるエネルギーに溢れた一品です。

はこべのカッテージチーズ和え

はこべのカッテージチーズ和え
カッテージチーズは脱脂乳などから作られる非熟成のチーズです。プロセスチーズなどと比較すると塩分・脂肪分が少ない低カロリー食品で、さわやかな酸味を持っています。市販のものは割高なので、ここでは牛乳と酢で手作りしましょう。はこべをカッテージチーズや干し柿と一緒に取ると、良質なたんぱく質、ビタミンA、食物繊維などが豊富に取れるため、皮膚や粘膜を健康にして美肌作りに有効な食べ合わせになります。抗酸化力も高く、脂質異常や動脈硬化予防にも有効で、ヘルシーメニューとしてもおススメです。

はこべとやまいものだんご汁

はこべとやまいものだんご汁
やまのいもは別名「山ウナギ」とも呼ばれる滋養強壮に働く食べ物です。はこべと一緒に取ると、ともに含まれる抗酸化作用を持つサポニンや酵素の働きにより、細胞の酸化が予防され新陳代謝が高まる食べ合わせになります。干ししいたけの抗ウイルス・抗がん作用と牛乳と味噌の良質なたんぱく質が、免疫力をさらに高めます。

はこべと牛肉のすき焼き風

はこべと牛肉のすき焼き風
牛肉はたんぱく質や脂質を豊富に含む栄養価の高い肉です。鉄分を多く含んでいるため、はこべと一緒に取ると、貧血や冷え性予防に有効な食べ合わせになり、水分代謝を調整して、利尿やむくみ予防にも働きます。卵黄は脳や神経が最も必要とするレシチンを豊富に含み、記憶力や知能向上に働きます。はこべのフラボノイドが体の生理機能を整える栄養価に富んだ一品です。