パオツァイ
泡菜(パオツァイ)とは
専用のかめで作られる泡菜
泡菜は中国四川省を中心に作られている野菜を乳酸発酵させた漬物です。その歴史は古く、3000年以上も前から製造が行われていたといわれ、製造の際に「泡菜がめ」といわれる専用のかめを使って作るのが大きな特徴です。酸味と独特の香辛料の風味を持ち、野菜を漬け込んでから常温で保存する間に発酵が進むと「泡」が出ることから、泡菜と呼ばれるようになったといわれています。
野菜の種類は多岐にわたる
泡菜に用いられる野菜は実に多岐にわたっています。野菜の組織が緻密で軟化することが少ない野菜であれば、何でも泡菜にすることができます。四川省では大根、白菜、にんじん、キャベツ、きゅうり、セリ、いんげん豆、しょうが、チョロギ、青唐辛子、にんにく、らっきょう、トマトなど豊富な種類の泡菜が作られています。旬の季節の野菜で作る場合と、何種類もの野菜を一緒に漬け込んで作る泡菜もあります。
泡菜の種類は100種類以上もある
乳酸発酵でできた泡菜の漬け汁にはさまざまな香辛料が入っています。香辛料は好みによって多様な種類が使われ、漬け込む野菜も多岐にわたっているため、香辛料と野菜の組み合わせによって、泡菜は100種類以上もあるといわれています。泡菜は手軽に作ることができるため、四川省のみならず中国の広い地域で作られている「家庭の味」の漬物です。
合理的な道具「泡菜かめ(パオツァィタン)」
泡菜を漬ける時に使われる壺は、「泡菜かめ」「上水壺」と呼ばれています。かめの陶土は酸・アルカリ・食塩に対して耐性があり、かめの内側・外側ともに釉薬が塗られています。かめの入口は小さく、中間部は膨れた形をしており、かめの口の周りにある溝に水を張りフタをすると空気の流通を遮断することができる構造になっています。かめの内部で発生したガスは外に排気されますが、外気はかめの中に入らないように工夫されており、外気が入らないので内部は嫌気状態が保たれ、この状態下のもとで好気状態を好むカビや(※)産膜酵母などの有害菌の発育を抑えます。また、外部からの微生物の侵入も防止できるなど、泡菜かめは長い歴史を経て考え出された、極めて合理的な道具となっています。
※ 産膜酵母:好気性で好塩性の酵母で、過酷な環境でも死滅しない性質を持っている。梅干しや糠漬けなどの表面に薄い膜状に繁殖し、「白カビ」とも呼ばれている。
泡菜に含まれる主な成分
野菜、八角や花椒などの香辛料、砂糖、塩、白酒を原料に作られる泡菜は、酸味と香辛料の特有な風味を持つ発酵食品です。専用の独特なかめはその構造が乳酸菌の活動を助け、有害菌を抑える働きを持っています。泡菜の主要菌は乳酸菌で、品質を高めるために使われる白酒や八角や花椒などの香辛料の持つ有効成分が豊富に含まれています。
主要菌は乳酸菌
独特のかめで作られる発酵食品である泡菜の主要菌は乳酸菌です。泡菜の乳酸菌は植物性乳酸菌で、野菜の中のブドウ糖や果糖などの糖類を分解して、乳酸や酢酸を作り出します。乳酸が野菜に酸味を、有機酸が香りや味をつけるため、乳酸発酵の漬物には特有のうまみが備わります。また、ヨーグルトなどの乳製品で働く動物性乳酸菌よりも胃酸などに強い性質をもっているため腸に届く割合も高く、腸の働きを整えて免疫力を高める働きを持っています。
乳酸は保存性を高める働きも持っている
乳酸菌の主要成分である乳酸は、漬物の保存性を高める働きも担っています。野菜に酸味をつけることで漬物のpHを下げて酸性にします。それによって味を悪くしたり健康に有害な菌の発生や増殖を抑える働きをします。
健胃、嘔吐などの効能を持つ八角
原産は中国南部やベトナムで、シキミ科の常緑低木。実は八角の放射線形で、6~8個の舟形のさやに種子が1個ずつ入っており、実は熟すと赤褐色の木質になります。木質のさやにはアニス(最も古いスパイスのひとつ。少し甘めの味と香りがある。香りの主成分はアネトール)に似たよい香りとほのかな苦みがあり、さやごと乾燥して中国料理の香辛料として使われています。ダイウイキョウ、トウシキミ、スターアニスなどの別名でも呼ばれ、中華料理に欠かせないスパイスで、五香粉(中国のブランドスパイス)にも用いられています。少量でも香りを発するため、使い過ぎないように注意することが大切です。中医学では健胃、嘔吐、咳止め、鎮痛などに効果を発揮するといわれています。
精神安定、消炎鎮痛などの効能を持つ花椒(ホアジャオ)
日本語読みでは「かしょう」と呼ばれる花椒は中国のミカン科サンショウ属の落葉低木で、日本の山椒とは同属異種にあたります。日本ではあまりポピュラーではありませんが、中国ではどの家庭にも常備されているスパイスで、しびれるような辛さを持つため特に四川料理には欠かすことのできない必須スパイスです。調味料として利用されると同時に、中医学では精神安定、消炎鎮痛、血圧低下などの効能があるとされ古来より利用されていた歴史を持っています。
泡菜(パオツァイ)の作り方
生で食べることのできる野菜なら、ほとんどのもので泡菜を作ることができます。ここでは大根を使った泡菜を作ってみましょう。
ゆっくり発酵熟成させて出来た漬け汁は、その後に新しい野菜を一晩漬ければ、翌朝にはあっさりとした泡菜となります(冷蔵庫で漬ける場合は2~3日かかる)。泡菜の漬け汁は日本の糠漬けと一緒で何度も漬けていると食塩濃度が低下してくるので、時々食塩を補って調整します。しょうがや八角の風味が低下してきたら新しいものを入れ、水が減ってきたら水を加えます。漬けた当日はサラダ感覚で食することができますが、発酵させることで深い味わいのある泡菜になります。
所要時間:30分(大根を天日干しする時間は除く)
熟成させる時間:1週間から10日間
材料
大根 | 中2本(1800~2000g) |
しょうが | 200g |
[A] | 水…2リットル 塩…100g 砂糖…100g 焼酎…60ml |
[B] | 乾燥唐辛子…30g 花椒(花山椒粒、山椒粒)…10g 八角…4g |
作り方
- 大根はよく洗い、4~5㎝長さの角切りにして、しんなりする程度に天日干しにする(目安は半日ほど)。
- しょうがはスライスする。
- ボウルにAを入れ、よく混ぜて塩や砂糖を溶かす。
- 漬物容器に大根、しょうが、Bの香辛を入れ、③を注ぎ入れ、表面をガーゼで覆い具材が浮き上がらないように重石をする。※八角はとがっているのでガーゼなどに包むとよい。
- 陽のあたらない室温で約1週間から10日間置く。乳酸発酵したら冷蔵庫で保存する。
パオツァイレシピ
季節の野菜で作る泡菜は栄養豊かな乳酸発酵食品です。漬物としてそのまま食べる他に、炒め物やスープなどの材料として利用されることの多い食品です。まろやかな酸味とうま味を持つ泡菜は肉や魚との相性も良く、食べ合わせる食材で主菜にも副菜にもなり、日常の食生活をバリエーション豊かにしてくれます。泡菜を使った後の漬け汁にはうま味が溶け出ているので、好みの野菜を漬けてみてください。泡菜の漬け汁は継ぎ足して使い込むほど深みのある味になってきます。ここでは大根泡菜を使ったレシピを紹介しましょう。