塩麹

塩麹とは

塩麹は麹が作り出す発酵調味料

塩麹は「塩+麹+水」で作る発酵調味料です。麹の力で作る調味料ですが、しょうゆや味噌といった伝統的な調味料とは若干異なり、漬物を作る際に多く利用されていた発酵食品です。関東では漬物は米糠を使った糠漬けが広く一般的ですが、東北地方などでは糠漬けよりも麹を使った「三五八漬け(さごはちづけ)」や「寒麹(かんこうじ)漬け」が一般的です。三五八漬けも寒麹漬けも材料に米を使用しますが、塩麹は麹だけを使うため、簡単に作ることができ、昨今、急に人気の高まってきた発酵調味料です。
麹菌は日本の環境でしか生存しない菌のため、日本醸造学会では「国菌(こっきん)」と位置付けています。この日本特有の麹の歴史は古く、『延喜式(えんぎしき)』の造酒司に、麹の表記が出ています。

麹菌(アスペルギルス・オリゼー)は有用カビの代表的な菌種

塩麹に欠かせない麹ですが、そもそも麹とは、蒸した米、大麦、大豆、小麦などに麹菌(麹カビ)を繁殖させたもので、麹菌を繁殖させる材料により、「米麹」「麦麹」「豆麹」と呼ばれています。麹菌は代表的な有効カビの代表的な菌種で、日本の伝統的な醸造食品である清酒、しょうゆ、味噌などの原料になる麹の製造に利用され、日本の発酵食品に欠かせない日本特有の有用菌です。子嚢(しのう)菌類に属し、多くは無性生殖で増殖。コロニー(集落)は初期の頃は白色ですが、分生胞子ができ始めると色合いは黄色→黄緑色→緑色→褐色へと変化し、そのため黄麹菌とも呼ばれています。

加齢とともに減少する体内の分解酵素

麹菌はデンプン質の食品によく生え、アミラーゼ、マルターゼ、インベルターゼなどの糖化酵素やタンパク質分解酵素を生産します。米に増殖させて作る米麹には、酵素が約100種類以上も含まれているといわれ、それらの酵素が科学では作りだせない絶妙なうま味や香り、効能を生み出します。塩麹に含まれる数多くの分解酵素は、食べ物をやわらかくして消化をよくし、うま味成分のグルタミン酸を増やす働きがあるため、胃腸の負担軽減や食味向上に有効に働きます。分解酵素は私たちの体内に備わっているのですが、その生産量は加齢とともに減少するため、歳を重ねるに応じて酵素を豊富に含んだ食品を取ることは健康維持には大切です。

酵素の働きに関係する温度と塩分含有量

しかし、酵素はその性質上、もっとも活発に活動する温度帯は30~50℃で、80℃以上になると働きは止まってしまうため、酵素の働きを有効に利用するなら高温加熱は避けた方がよいでしょう。また、酵素は塩分が少ない方が活性化するので、塩麹の塩分含有量が高いと酵素の働きは緩慢になりますが、細菌の増殖が抑えられるため保存性は高まります。一方、塩分含有量が低いと酵素の働きは活性化しますが、細菌の増殖も活発になり、保存性が低くなります。
冷蔵庫などのなかった時代には保存性も重視され、塩分含有量は高いのが一般的でしたが、今日では低い塩分含有で作られる塩麹が多く普及しています。

残った塩麹は元の容器に戻さない

塩麹は麹の生み出した酵素の宝庫です。酵素の活動する温度は細菌も活動する温度帯なので、漬け床などに使った塩麹は使い切るようにし、残っても元の容器に戻さないようにしましょう。万が一の細菌発生を考えると、一度漬け床などに使用した塩麹は再度使用しない方が無難です。

塩麹に含まれる主な成分

塩麹は塩・麹(米麹)・水で作る発酵調味料です。塩麹が生み出すうま味や甘味、栄養成分は主として麹に含まれている麹菌の働きによるものです。
塩麹の特性は何といっても麹に含まれる多様な酵素が生み出す働きでしょう。塩麹に野菜や魚介、肉類などの食品を漬けておくと、うま味が増してやわらかくなります。このうま味ややわらかさは、塩麹に含まれる麹菌の働きによるものです。本来、麹は塩分含有が高いと活力がダウンしてその働きを失ってしまうのですが、麹に含まれている酵素はそのまま生き続けて酵素独自の働きを維持し続けるため、塩麹は食品にうま味ややわらかさが与える発酵食品となるのです。
塩麹に含まれる優れた成分を紹介しましょう。

100種類以上の酵素が健康維持に働く

麹菌が生産する酵素は実に多様です。主な酵素として、デンプンを分解する「アミラーゼ」、タンパク質を分解する「プロテアーゼ」、脂肪を分解する「リパーゼ」、グルコースを生成する「グルコアミラーゼ」、遊離アミノ酸を生成する「ペプチダーゼ」などが挙げられます。
麹にはこれら高い分解能力を持つ数十種類もの酵素が含まれており、それらの酵素が食品中のデンプンやタンパク質を分解して食品にうま味や甘味を与え、やわらかくて消化に優れた効能を生み出します。酵素の働きによって生み出された効能は、体内に栄養成分を無駄なく吸収することで体を健康へと導いていきます。それゆえ、麹を使った発酵食品は古来より健康維持に欠かせないものとして、日常の食生活の中で確固たる地位を占めていたのです。

塩麹にはビタミンB群が豊富に含まれている

塩麹にはビタミンB群が豊富に含まれています。慢性疲労の回復に欠かせないビタミンB1、体細胞の酸化によって発生しやすい過酸化脂質の害から体を守るビタミンB2、糖質や脂肪などの代謝に不可欠なナイアシンなどで、さらに最近、麹菌の細胞内でビタミンBの生合成に関わる酵素が働いているとの研究も報告されています(丸山潤一助教授 東京大学大学院農学生命科学研究所微生物研究室)。ただし、ビタミンB群は水溶性のビタミンなので、体内に蓄積することはできません。日常的に麹を取り入れる食生活で、ビタミンB群を体内に上手に取り入れ、健康維持に役立てましょう。

塩麹の作り方

塩麹の原料は塩と麹(米麹が一般的)で、塩麹の優れた効能は麹菌の生み出す酵素によるものです。酵素は塩分量が少ない方が活性化するので、酵素の活性化を考えるならば塩分は少ない方がよいでしょう。しかし、塩分含有が低いと細菌の発生も活発になるため、保存環境に気をつけることが大切になってきます。
ここでは麹に対して30%の塩分量の塩麹のレシピをご紹介しましょう。塩麹を寝かせる期間は環境によって異なり、気温が低いと寝かせる期間が長くなりますが、発酵させている間は冷蔵庫に入れないようにします。酵素が活性する温度帯は30~50℃のため、冷蔵庫に入れると酵素の働きが弱って発酵が進まなくなってしまうからです。
塩麹を1~2週間ほど寝かせると、麹が溶けて粥状になってきます。このような状態になったら出来上がりですが、好みでさらに発酵を続けてトロトロの状態にすると、またさらにまろやかなうま味のある塩麹となります。時間が経つに連れて色合いが黄色みを帯びてきますが、味には影響はありませんのでご安心を。

所要時間:30分
寝かせる時間:10日から1か月

材料

米麹600g
180g
800ml

作り方

  1. 米麹はボウルに入れ、手で握ってもみほぐすようにし、麹が粒状になるまでよくほぐす。
    塩麹の作り方
  2. ①に塩を加え、粒状の麹と塩がなじむように、手でよく混ぜ合わせる。
    塩麹の作り方
  3. ②に水を注ぎ入れ、ゴムべらなどでよく混ぜ、塩を完全に溶かす。
  4. 清潔な保存容器に入れ、フタをして常温で寝かせる。密閉容器の場合は完全に密閉しないで、フタを少しゆるめておく。
    塩麹の作り方
  5. 毎日1回混ぜ、空気を入れる。麹が溶けて粥状になったら出来上がり。
    塩麹の作り方

塩麹レシピ

塩麹は塩と麹で作る発酵食品です。麹に含まれる麹菌の生み出す酵素が、塩麹そのものにうまみや甘味を与えるため、そのまま調味料として利用すると、手軽に栄養価の高い料理を作ることができます。また、ある一定の時間、塩麹に食材を漬け込むと、麹菌の酵素が食材を分解して甘味やうま味を引き出すため、よりうま味の高い料理を作ることができます。いずれにしても、塩麹を使った料理は手軽にうま味や甘味を得ることができるのが特徴です。本来、塩麹は保存食品として利用されてきたため、塩分含有が高くなっているのが一般的です。食材を長く塩麹に漬けておくと、食材に塩分が入りすぎて塩味が強くなるため、漬け過ぎには注意しましょう。

納豆の塩麹漬け

納豆の塩麹漬け
納豆の麹和えは山形県の米沢市を中心とした置賜地方が発祥といわれ、「五斗納豆(ごどなっとう)」とも呼ばれる納豆に麹と塩を混ぜて熟成させた食べ物です。名の由来は「納豆一石に麹と塩を五斗混ぜて作る」「上杉鷹山が五斗瓶で作ることを奨励した」などと伝えられています。納豆菌によって消化の高まった納豆と、切り干し大根、きくらげ、にんじんを一緒に取ると、体の生理機能が整えられ、免疫力が高まる食べ合わせになります。高血圧・動脈硬化・脂質異常の予防に有効な保存食品です。

刺身の塩麹和え

刺身の塩麹和え
サーモンとブリは不飽和脂肪酸のEPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)を豊富に含んでいる魚です。EPAは血小板の凝集を抑えて血を固まりにくくし、DHAは老化を防止し脳の機能を高める働きを持っています。イカには強い抗酸化作用を持つ遊離アミノ酸の一種であるタウリンが豊富に含まれています。塩麹に漬けることで魚の持つ栄養成分の体内吸収が高まり、免疫力が強化され、動脈硬化や脂質異常の防止に働きます。魚の良質な脂質は、生食すると無駄なく取り入れることができます。

さといもとタラの塩麹煮

さといもとタラの塩麹煮
さといも・タラ・にんじんを一緒に取ると、体力や気力が強化され、肥満や糖尿病の予防に有効な食べ合わせになります。さといもの主成分はでんぷんとたんぱく質で、ビタミンB群や食物繊維を含んでいます。特有のヌメリ成分は胃腸を丈夫にする働きをします。タラの身は良質なたんぱく質やカルシウムを豊富に含み、血や肉、丈夫な骨を作ります。にんじんはカロテンの宝庫と呼ばれる緑黄色野菜で、カルシウムやカリウムなどのミネラル類を豊富に含み、体の活力不足を補う働きにも優れています。塩麹で煮ることで食材がやわらかくなって消化吸収が高まります。黒豆をプラスして抗酸化力を高め、ダイエットにもおススメのレシピです。

きのことナッツの塩麹漬け

きのことナッツの塩麹漬け
きのこは総じてコレステロール値を下げる食物繊維を豊富に含んでいる食材です。しいたけには血圧や血中コレステロールを下げるエリタデシンや抗がん作用のあるレンチナン、しめじには過酸化脂質の生成を抑えるビタミンB2、まいたけには抗腫瘍性の高いβ―グルカンが含まれており、高い抗がん作用と同時に動脈硬化や高血圧の予防効果が期待できます。ナッツ類の脂質は良質な不飽和脂肪酸で、ビタミンEを含んでいるため、体や脳の老化防止に優れた効果を発揮し若さ維持に働きます。きのことナッツを塩麹につけることで、ビタミンやミネラルが増加し消化吸収に優れた一品になります。味が強いので、オムレツやグラタンなどの具材として利用するとよいでしょう。

きのことナッツの塩麹チヂミ

きのことナッツの塩麹チヂミ
きのことナッツの塩麹漬けで作るチヂミです。小麦粉と米粉のでんぷんとたんぱく質、卵のたんぱく質・脂質・ビタミン類などが加わることで、栄養バランスの高いエネルギーに溢れた一品になります。きのことナッツの豊富な食物繊維が血中コレステロールを下げ、腸内環境を整えて便秘予防に働きます。

豚肉の塩麹ピカタ

豚肉の塩麹ピカタ
豚肉は良質なたんぱく質と脂質を持った栄養価の高い肉です。たんぱく質はアミノ酸バランスに優れ、特にビタミンB1を豊富に含んでいるため、疲労回復に有効です。豚肉同様に栄養価の高い卵を一緒に取ると、豚肉のビタミンB1と卵黄のレシチンの働きにより、知能や記憶力の向上に優れた食べ合わせになります。粒マスタードが食欲増進に働き、オリーブ油が美肌効果に働きます。

タンドリー風塩麹チキン

タンドリー風塩麹チキン
鶏肉はアミノ酸バランスに優れたたんぱく質を含み、やわらかくて消化のよい肉です。たんぱく質には脂肪肝の予防に有効なメチオニンが多く含まれ、脂質にはコレステロール値を減らす不飽和脂肪酸が多く含まれています。ビタミンやミネラルが豊富な塩麹と抗酸化力の高いカレー粉と一緒に取ると、細胞の酸化が予防され免疫力が高まる食べ合わせになります。カレー粉には含数十種類のスパイスが含まれており、高い殺菌作用が食べ物の腐敗防止に働きます。

鶏モモ肉と野菜の塩麹焼き

鶏モモ肉と野菜の塩麹焼き
鶏肉はたんぱく質や脂質を豊富に含み、消化が良いため滋養食として病後の体力回復にピッタリの肉です。特にモモ肉には増血作用のある鉄分が多く含まれ、皮を除けばカロリーが低いのでダイエット中の大切な動物性のたんぱく源となります。しいたけとしし唐辛子を一緒に取ることで、カロテン・ビタミンC・食物繊維・抗酸化力などがプラスされ、栄養バランスの高い食べ合わせになります。レモンでビタミンCを補い、酸味成分のクエン酸が疲労回復に働きます。

じゃがいもの塩麹ミートソース

じゃがいもの塩麹ミートソース
牛肉はたんぱく質・脂質・鉄分などを豊富に含む栄養価の高い食べ物です。ビタミン類を豊富に含むじゃがいもと一緒に取ると、胃腸が強化され気力や体力の回復に有効な食べ合わせになります。たまねぎの硫化アリル類が血中の善玉コレステロールを増やして悪玉コレステロール減少に働き、過熱に強いピーマンのビタミンCがストレスへの抵抗力を高めます。まとめてたくさん作り小分けして冷凍しておくと、簡単に幅広い料理に応用できます。

鮭・栗・きのこの塩麹炊き込みごはん

鮭・栗・きのこの塩麹炊き込みごはん
鮭・栗・きのこ・塩麹で作る炊き込みごはんは、栄養バランスに優れた健康食です。鮭のたんぱく質と脂質、栗のでんぷんとビタミン類、きのこの抗ウイルス性と食物繊維に、米のでんぷん・たんぱく質・ビタミン・ミネラルなどが加わり、体の生理機能が整えられて体力が強化する食べ合わせになります。鮭は炊き込むことで良質な脂質を損なうことなく取り入れることができます。塩麹で甘味とうま味が醸し出され、食欲が増進される一品になります。

塩麹入りパセリソースのそばパスタ

塩麹入りパセリソースのそばパスタ
そばの主成分は消化のよいでんぷんで、即エネルギー源として働きます。たんぱく質は白米や小麦よりも多く、ビタミンB群を豊富に含んでいます。パセリはビタミンCとカロテンを豊富に含み、特有の香りは胃に適度な刺激を与えて消化を高め食欲増進に働きます。そば・パセリ・ホタテを一緒に取ると、食欲が増進されて体力が強化し、ホタテの遊離アミノ酸のタウリンが血中コレステロールの低下に働くため、脂質異常や高血圧の予防に有効な食べ合わせになります。