どくだみ
どくだみ(蕺草)とは
高い生命力を持ち、原爆投下の広島の地に真っ先に芽を出したどくだみ
どくだみは中国から伝来したといわれるドクダミ科の多年草で、本州から沖縄に亘る広い範囲に分布し、野原、道端、荒地、溝、水田などの日陰や湿った場所を好んで群生します。初夏に十字型の白い穂状の花をつけ、草丈は20~50cmほどに生長。花の後に球形に近い褐色の小さな果実を付け種子ができますが、子孫を作れない不燃性の種子のため地下茎を伸ばして繁殖していきます。葉はさつまいもの葉に似たハート形で、特有の強い香り(臭気)を持っています。この臭気ゆえに敬遠されがちですが、高い生命力と薬効を持つことから健康食材として古来より食され、かつて原爆が投下されて焼け野原になった広島の地に、真っ先に芽を出したのがどくだみだと伝えられています。
どくだみと呼ばれるようになったのは江戸時代中期から
特有の香り(臭気)から、何か毒でも入っているのではと推測され、「毒溜(どくだめ)=毒を溜めている→どくだみ」と呼ばれるようになったといわれる一方、「毒矯(どくだめ)=毒を矯正する」、「毒痛み(どくいたみ)=毒や傷みに効能がある」という意味合いからどくだみと呼ばれるようになったと、名の由来は諸説あります。古来は和名として「之布岐(しぶき)」と呼ばれ、野菜の一種として食されていたことが文献に記されています。どくだみという名称で呼ばれるようになったのは江戸時代で、この頃から民間薬として利用され始め現代に至っています。強い生命力で日本各地に生息することから「どくけしそう」「どくなべ」「ほとけぐさ」「かみなりのへ」「さんかくそう」「じごくそば」「はっちょうぐさ」など数多くの別名を持っています。
常用しても副作用がないのはどくだみだけ
『日本薬局方(にほんやっきょくほう)』ではどくだみの生薬名は「十薬(じゅうやく)」。「十の薬効を持つ」「十の毒を消す」の意が名の由来といわれています。十薬はどくだみの花期の時に地上部から取って乾燥させたものを指し、煎じてお茶代わりに飲むことで、利尿、便秘、高血圧などの予防に有効であるといわれています。『大和本草(やまとほんぞう)』(貝原益軒 著)には馬に与えると「十種ノ薬ノ能アリトテ十薬ト号スト云」と書かれています。一般に薬草は過剰摂取にはリスクが伴いますが、どくだみだけは常用しても副作用がないといわれ、継続的な摂取により、老廃物が排泄され新陳代謝が促進されるといわれています。しかし、『本草綱目(ほんぞうこうもく)』では多食への健康被害の記述もあり、いずれにせよ、どくだみのみを多食することはマイナス要素を引き起こす可能性があるので、多食は避けましょう。
※日本薬局方:薬事法第41条により、日本国内の医療に供する医薬品の性状及び品質を定めた基準。厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める。
特有の臭気で、虫除けや臭い消し
薬効の高いどくだみは、その特有の香り(臭気)から日常生活の中で虫除けや臭い消しに利用されてきました。現代においても根元から切り取ったどくだみ3~4本を瓶にさし、冷蔵庫の隅の方に入れて脱臭剤の代わりなどに利用されています。
入浴時の利用も有効
虫除けや消臭以外にも、どくだみは入浴時にも利用されます。血液の循環がよくなる、消炎作用があるなどの効能を持っているため、冷え性や皮膚炎などの改善に働きます。入浴時に利用する時は、乾燥したどくだみの煎じ液を浴槽に入れる場合と、布袋に乾燥したどくだみを入れて水の段階から浴槽に入れて沸かす場合の方法があります。血行がよくなり皮脂分泌も活発になるため、民間療法として伝えられてきた歴史を持っています。
諸外国では珍重される品種もある
どくだみは特有の香り(臭気)ゆえに嫌われ雑草扱いされていますが、総苞片(そうほうへん)をたくさん付ける八重咲きのものや、葉に乳白色の斑が入る種類のものもあります。斑入りのどくだみを日本では「ごしきどくだみ」、海外では「カメレオン」と呼ばれ、希少ゆえに珍重されています。
どくだみに含まれる主な成分
中国から伝来したどくだみは特有の香り(臭気)を持っていますが、全草に薬効を含み、糖尿病、高血圧、神経痛、便秘、利尿、胆石症など様々な症状に有効であると報告されているもっとも有益な薬草です。葉にはクエルチトリン、花穂にはイソクエルチトリンが多く含まれ、特有の臭気はデカノイルアセトアルデヒドやラウリールアルデヒドなどの精油成分です。ミネラルではカリウム塩を含み、葉には葉緑素が含まれています。
高血圧や動脈硬化の予防に有効
どくだみの葉に多く含まれるクエルチトリンは血圧調整作用、利尿作用、血管拡張作用があり、体内の老廃物を体外に排出する働きを持っています。花穂に多く含まれるイソクエルチトリンには血圧調整作用があります。双方には毛細血管強化や新陳代謝を促す働きも報告されており、それらの働きの総合性により、高血圧・動脈硬化・脂質異常・糖尿病などの生活習慣病の予防に有効と考えられています。クエルチトリンは高血圧治療時に使われる降圧利尿剤と同じ作用を有しているといわれ、民間薬として使われてきた長い歴史を持っています。
特有の臭気には強い抗菌作用がある
特有の香りのもとである精油成分デカノイルアセトアルデヒドは、強い抗菌作用を持ち、黄色ブドウ球菌や肺炎球菌、白癬菌(はくせんきん)などの細菌やある種のウイルスの活動を抑える力があるといわれます。皮膚の疾病にも有効といわれ、アトピー性皮膚炎や水虫などの予防や治癒に利用されています。ただし、乾燥させると精油成分のデカノイルアセトアルデヒドは酸化されてメチルノニルケトンとなり、香りがなくなると同時に強い抗菌作用も失われます。
カリウム塩が神経細胞や筋肉組織を活性化する
どくだみに含まれるカリウム塩は神経細胞や筋肉組織を活性化する働きを持っています。カリウム塩とは「塩化カリウム、硫酸カリウム、炭酸カリウムなどの総称」で、体内の水分を正常に保ち、利尿作用や快便作用、自律神経をコントロールするなどの働きも持っています。どくだみには高濃度のカリウム塩が含まれているため、腎機能が低下気味の高齢者の過食は注意が必要です。
光合成に欠かせないクロロフィル(葉緑素)が健康維持に働く
クロロフィルは葉緑素とも呼ばれる緑色をした色素で、どくだみの葉が緑色なのはクロロフィルを含有しているからです。クロロフィルの分子構造は血液に類似しているため「植物の血液」とも呼ばれています。「増血や血液をキレイにする」「肝臓の強化」「損傷を受けた組織の修復」などの働きを持ち、私たちの健康維持に働き、光合成に欠かせない成分です。
※光合成:動けない植物が必要な栄養分(炭水化物)を自分の体の中で作る仕組み。太陽光・空気中の二酸化炭素・根から吸い上げた水を使って、葉緑体の中で栄養成分を作り出し、水を分解する過程でできる酸素は外に排出する。
どくだみのゆで方
どくだみの特有の香り(臭気)は加熱することで和らぐので、てんぷらなど直接加熱する場合を除いては、ゆでてから料理に使用します(ベトナムなどでは生葉を食用とする)。さっとゆでてすぐに水にさらしますが、さらす水を数回換えると臭気が気にならなくなります。
どくだみのゆで方
- 採取したどくだみはよく洗い、水気を切る。
- 鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、塩少々を加え、水気を切ったどくだみをさっとゆでる。
- ゆであがったらすぐに水に放す。数回水を変えて水にさらす。
どくだみレシピ
どくだみはそのまま食すことができますが、クセの強い特有の香り(臭気)を持っているため、料理に使用する時はまず臭いを取り除いてから利用するのが一般的です。特有の香りは乾燥させたりゆでたりするとほとんど消えてしまうので、天ぷら以外の料理に使用する時は、ゆでてから水にさらします。水を数回かえると臭いが抜けて料理の食材として利用しやすくなります。葉・茎・根と丸ごと食べることができるので、たんぱく質・脂質・炭水化物と食べ合わせ、バランスのよい健康レシピを作ってみましょう。